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第187話
ディスプレイに表示されているのは知らない番号で九流はもしやと急いで電話に出た。
「もしもし!」
『・・・・・』
「もしもし!もしもし!!」
『・・・・・』
必死に呼び掛けるも相手からは無言が続いた。
九流は唾を飲み込み、そうであってほしい人物の名前を呼んだ。
「・・・・・ざくろ」
電話の向こうで相手が息を呑むのが分かった。
「ざくろなのか?返事を・・・」
「あきらです」
九流の声を遮り答えたのはざくろではなく、妹のあきらだった。
「あきらちゃん!?今、何処にいるんだ?何がどうなってるか教えてくれないか?ざくろはどうしてる!?」
ざくろと唯一の架け橋になってくれるあきらに九流は縋り付くように叫んだ。
「九流先輩、ごめんなさい・・・。私のせいでお兄ちゃんと別れちゃって」
本当に申し訳ないように謝罪してくるあきらに胸が痛くなった。
「ざくろは?元気にしてるか?」
「・・・よく分かりません」
常に側にいるにも関わらず、あきらは兄の感情が読み取れなかった。そして毎夜アルバイトへ出て帰ってきた朝方から夕方まで自室に閉じこもるざくろとコミュニケーションが取れずにいることを告げた。
あきらからの返答に九流はやりきれない気持ちが溢れそうになる。
その時、門倉が手を挙げて九流から携帯電話を奪いスピーカーモードにして電話を机の上に置いた。
「こんにちは、あきらちゃん。俺は君のお兄さんの学校の生徒会長してる門倉です。猛の親友だから信用してほしいんだけど、君達何か事件とかに巻き込まれてんのかな?」
「事件・・・。事件なのかな?・・・・・普通に父親のDVです」
「DV!?立派な犯罪事件成立だよ」
「後・・・、人身売買の斡旋」
消え入りそうな声であきらが呟くと、九流と門倉がお互いを見た。
「昔、交番にいるお巡りさんにお兄ちゃんと相談したら、躾とか喧嘩とかで片付けられて、お父さんに今より酷い目にあわされたの。だから警察は頼れない」
あきらの震える声に門倉は苦虫を潰したように顔を歪めた。
そして、西條 京介の調書から薬物使用と人身売買斡旋の情報が書かれていたことを頭に過ぎらせる。
「あきらちゃん、会えないかな?」
九流が極力優しい声でいうとあきらは泣きそうな声で答えた。
「それは無理。お兄ちゃんが悲しむもん」
「ざくろが?どうして?俺はざくろにも会いたい」
「お兄ちゃん、私のせいで全部がめちゃくちゃなの。九流先輩にも本当に申し訳なくて・・・。私のせいで・・・っ・・」
呼吸を乱して泣き出すあきらに門倉が厳しい口調で告げた。
「甘えるな。自分のせいだと分かってるなら自分がどうあるべきなのか、どうすればいいのか考えて行動しろ!」
「っ!!」
まさかの説教にあきらは息を詰める。
九流はキツイ物言いの親友を睨みつけたが、門倉はそれを一瞥してあきらをただした。
「今、居る場所を教えるんだ。兄を助けたいなら尚更。その辺の警官より数百倍役に立ってみせるから!ってか、そのおバカな警官の名前覚えてるなら是非とも教えて欲しいぐらいだね」
何処まで本気なのか分からないが、最後はハハハと軽快に笑う門倉にあきらも力が抜けたのか電話越しに吐息で笑うのが感じられた。
そして、少し戸惑いながらもあきらは今住んでいるマンションの住所を二人に教えた。
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