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第193話

「すみません。俺は受付なんで」 本日何度目になるか数え切れない客からのお誘いをざくろは笑顔で躱す。 「受付やめて中のホストやりなよ。君なら売れるよ?」 明らかに金持ちそうなダンディな男性に手を握られ、ざくろは参ったなと苦笑した。 「その困った顔もいいね。そそられる。おじさんと良いことしようか?」 「いや、本当にすみません・・・」 「お金なら、好きなだけ払うよ?」 言い値をいえと嗤う男にざくろの瞳が濁った。 退学届を出してあきらの元で暮らすと決めたとき、かなりの出費があったことから、正直売りをしようと考えもした。 だけど、どうも気分が乗らなくてざくろは断念した。 理由はもちろん分かっている 九流だ・・・・ もう、会う事もない人物に義理立てする必要はないのだが、どうしてもまだ九流に抱かれたことを忘れたくなくて躊躇してしまう。 いずれこの気持ちも風化する そしたらまた前のように稼げるはずだ・・・ それまではと自分を言い聞かせて今、目の前にいる客に淡い笑顔で丁重にお断りした。 が、男はなかなか引き下がらない。 どうしたものかと悩んでいたとき、後ろから頭をぽんっと叩かれた。 「すみませ〜ん!こいつは、受付なので、勘弁して下さい」 振り返るとそこにはこの店のオーナーの林が立っていてざくろはホッと息を吐いた。 「お客様、中にはこの子以上の良いホストやホステスがいます。是非、中へ中へ!」 客の後ろに回って歩を進めるよう促し林はこういった問題な客を店の中へと押し込んで行った。 「ありがとうございます」 小声で助けてもらったお礼を客の背を押すオーナーの後ろ姿に向けて言うと、林は首だけ振り返りニコっと笑って奥へと消えていった。 そのとき、ズボンのポケットに入れていた携帯電話が鳴り、手に取るとあきらの名前がディスプレイに表示された。 仕事中で電話に出るか悩んだが、なかなか切れないコールに店内を見渡し、エントランスに幸い客がいないことから通話ボタンを押した。 「もしもし?あきら?どうかした?」 何事かと早口にあきらへ聞くと、受話器からあきらとは違う男の声にざくろは冷水を被ったような感覚に身を凍らせた。 『ざ〜く〜ろ君。あっそびましょ・・・』

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