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第194話
『10時までに戻ってこい。さもないとあきらをボコボコにして客に売り渡す』
たったそれだけを告げられ電話は切れた。
店の壁に掛けられた時計を見て今の時間を確認すると急いで店を飛び出し、家へ走った。
後、30分
走って急げば5分前にマンションへ着くはずだと自分を奮い立たせて必死に走る。
無事でいてくれ
頼むから・・・
嫌な汗が止め処なく溢れる。
走ることで息が上がり、心臓が痛かった。
苦しくもあったが、妹を思えば足は止まることがなく、ざくろは最後まで全力で走り続けた。
「あきらっ!!!」
壊された扉を勢いよく押し開いてざくろは息を切らせて部屋に入る。
時刻は9時50分
靴も脱がずにリビングに入るとソファの上で体を丸くして震えるあきらと煙草を吸う京介、そして以前自宅ですれ違ったスーツ姿の男が立っていた。
「おぉ!早かったじゃねーか!」
京介が嬉しそうに笑いながら息子へ目を向けると、あきらはそっと顔を上げた。
「あきら!」
走り寄って妹を抱きしめると、あきらは体を震わせて声を出さずに涙を流した。
少しずつ引いてきていた顔の腫れが京介によって再び青痣を増やして腫れ上がり、ざくろは悔しさに顔を歪ませる。
「あきら、大丈夫だから・・・」
必ず守ると自分自身に誓うざくろは妹をこんなにした父親を睨みつけた。
「お金ならあげるから帰ってください」
「んー?金はもらうけど帰らねー。ってか、この人、鈴木さん。かっこいーだろ?あきらの初体験にって思ったんだけど、あきらよりお前が気に入ったんだって!ってなわけで、よろしくぅ〜」
上機嫌な口ぶりでふざけたことをぬかす父親にギリリと奥歯を噛み締め、京介と鈴木を睨みつけた。
「おいおい、ざくろ。そんな怖い顔すんなよ。ってかお前、売りは専売特許だろ?」
ざくろのことを調べたのか京介はニヤニヤ笑って息子を見下ろした。
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