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第196話
「よっしゃ!契約成立だな。ほら、テンション高くなる薬だ。嫌々してお客様に不快にさせんのもなんだし飲めよ」
小さな白い錠剤を一粒京介に手渡され、ざくろはそれを見て溜息を吐くと抵抗することもなく口に含んで唾で飲み込んだ。
京介も客の男もニヤニヤ笑って自分を見てきたが、当の本人であるざくろは顔色一つ変えず無表情のままだった。
「この綺麗な顔が快楽に沈むのかと思うとたまりませんね」
鈴木が今から下半身を膨らませて興奮気味に呟きざくろを恍惚の瞳で見つめてくる。
「ほら、ざくろ。ちゃんと楽しませてこいよ」
下卑た笑みで自分の肩に触れようとしてくる京介の手を振り払うと、真っ青な顔で固まっているあきらを見てざくろは要求した。
「あきらのこと、早く外に出して」
約束だろうと睨みつけると、京介はニヤリと残忍な顔で嗤って言ってのけた。
「バァァカッ!逃すわけねぇーだろっ!女子中学生だぞ?それがどれだけ金になると思ってんだ!?アホか!あきらにはこの後、ちゃんと客を取ってんだよ!てめぇはてめぇの客の処理だけこなせ」
ドンっと肩を押され、足をフラつかせて後退するも、父親に騙されたとざくろは掴みかかった。
「ふざけんなっ!あきらに手出ししないって約束だろうがっ!仮にもあきらはお前の本当の娘だぞ!!」
胸倉を掴んで怒鳴りつけるが、京介はヘラヘラ笑って肩を竦めた。
「娘?娘なら親孝行するのが当たりまえだ!1円でも多く稼いでこい」
ちらりとあきらへ視線のみを向けて嘲笑う京介にざくろは拳を握りしめて殴りつけようとした。
が、その手を京介に捕まれ、体を床に叩きつけられる。
「そんな、カッカッすんなよ。別に減るもんでもないしもったいぶんなって。たかが1時間ベッドの上で転がってればいいだけだろ」
耳の穴を小指でほじりながらどうでも良さそうに溜息を吐いていう京介にざくろは怒りで目の前が真っ赤に染まった。
体を起き上がらせ、キッチンへ目を向けるとカウンター上にフルーツが盛られた皿が目に入った。
その中にあるペティナイフがキラリと光り、ざくろはそれに手を伸ばすと、京介に飛びかかって馬乗りになる。
常軌を逸した目を向ける息子に京介は固まり、銀色に鈍く光る刃をざくろは父親の喉元に突き付けた。
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