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第198話

バタバタと部屋へ入り込み、自分達を包囲する警察官達にテレビや映画のワンシーンのようで一瞬現実逃避が起こった。 しかし、自分もよく知る聞き慣れた男の声でざくろは正気に戻る。 「ざくろ!」 名前を呼ばれ、止めていた息をゆっくり吐きながら信じられないと目を開いてその人物を見た。 「・・・・九流先輩」 九流は無表情ではあったが周りを包む空気は怒りのオーラを纏いながらざくろに歩み寄ってきた。 自分の握りしめるナイフへ九流の視線が落ち、いたたまれなくて目を伏せたとき、二の腕を掴んで立たされた。 「俺以外の奴に跨るな・・・」 不愉快だと吐き捨てると、ざくろの手から果物ナイフを奪い取る。 怯えて硬直する京介へゴミ屑でも見るような冷めた瞳を向けたあと、ざくろの顎を指で押し上げて首を傾げた。 「殺したい奴がいるなら殺して欲しいってなんで俺に言わなかった?」 たかがそれぐらいのこと。と、軽い口調でとんでもない台詞を放つ九流にざくろは驚く。 「どんなおねだりも我儘も聞いてやるって言っただろ?」 睨みつけるように再確認してくる九流に背筋に冷や汗が流れた。 「お前はいつも俺の本気を見余るな・・・。人、一人殺すのに俺がビビるとでも思ってんのか?」 ざくろから手を離すと、九流は果物ナイフを指先で弄び、無様に寝転がる京介の頭上へ移動した。 ナイフの取手を親指と人指し指だけで摘むように持つと、臆することなくそれを京介の額めがけて落とした。 「ヒィィッーーー!!!」 落ちてくる果物ナイフの切っ先が当たる寸前、京介は悲鳴をあげながら転がってそれを躱し、近くにいる警察官達に這い蹲りながら助けを求める。 「た、助けてくれっ!! 人殺しだっ!!!」 ざくろと九流を指差し叫ぶ京介に警察官は誰一人として動かない。 その事態に困惑しながら、挙動不振に周りを見渡していると、扉付近で一部始終見ていた門倉が笑いながら近付いてきた。 「いやいやいや!人殺しだなんて侵害だな〜!ただの害虫駆除なのに。それに、もし捕まるなら未成年人身売買斡旋の罪で問われるのは貴方ですよ〜」 「はぁ!?お前ら、今の見てなかったのか!?」 ざくろを指差し怒鳴る京介に門倉は腕を組んで首を傾げた。 「西條 京介さん。残念ですけどここにいる警察官、実は普通の警察官じゃないんです」 申し訳なさそうに微笑んで門倉は告げた。 「この世には理不尽な事が溢れてるでしょう?例えば、子供が親を選べないように・・・」 ギラリと鈍い光を放つ瞳で睨まれて、京介はブルッと身を震わせた。 「この警察官、俺たち贔屓の理不尽な塊なんです。例えば、俺があんたを嬲り殺してもあんたはただの自殺扱いで処理される。ニュースにもならなければ誰にも気付かれないままこの世を去るでしょう。戸籍からなかった事にするのも可能ですけど、お望みならそれもいいですけど、そうしましょうか?」 意外と簡単なんですよ。と満面の笑顔を向ける門倉に京介は何がなんだか分からなかった。

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