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第15話

湊はため息をついた。 「やっぱり、泣かれるのはしんどいねぇ」 こっちが悪い訳じゃないのに、と湊の声は少し元気がない。 「断ったのか」 しっかり聞いていたくせに、肇はそんなことを聞く。湊は、うん、と空を仰いだ。 「……それはしんどいな」 肇が呟くと、湊がこちらを向く雰囲気がした。 「え、肇……告白されて泣かれた事ある?」 「……まぁ。……何だよ、意外か?」 「付き合わなかったの?」 何故か食い気味に聞いてくる湊。肇は真っ直ぐ前を向いたまま答える。 「人を好きになるって、よく分からないから」 「……」 湊は黙る。その沈黙が気になって彼を見ると、彼は視線を逸らした。 「好きな人、今までいなかったんだ?」 「うん……だから付き合おうとも思わなかった」 「そうかー……」 湊はため息混じりに呟く。肇は、つい最近まで嫌っていたのに、こうやっていきなり恋愛の話をしていて、不思議だなと思った。 「今も? 好きな人いないの?」 「いない。……なんだよ、こういう話は、お前の方が豊富なんじゃないのか?」 色々聞かれて面倒だと思った肇は、矛先を湊に向ける。この夏休みの間だけで、どれだけ言い寄られたんだ、と聞く。 「……いくら好意を寄せられても、俺が好きな人じゃなきゃ意味がないよ」 それもそうだ、と肇は思う。そして、贅沢な悩みだとも。彼は彼なりに苦労しているのかもしれないけれど。 「贅沢な悩みだな」 「……本当にそう思う?」 湊の声のトーンが下がった。思わず彼を見ると、真面目な顔をした湊がいる。 「……俺ね、両想いになった事無いんだ」 「は? 嘘だろ?」 これだけチートなキャラなのに、と肇は思った。顔が良くて、体格もよくて、性格も悪くない、みんな放っておかない優良物件なのに。 みんな同じ反応するなぁ、と湊は苦笑する。 「好きな人がいる人を好きになっちゃうの。もうお相手がいる人とか」 だからか、と先程告白を断って元気が無かった湊の反応に、合点がいく。振られる怖さと痛みを、知っているからだ。 「じゃあお前が好きになった人は、よっぽど見る目が無かったんだな。付き合わなくて正解だ」 肇はそう言うと、湊は「何それ、遠回しに褒めてる?」と笑う。 「ってか、肇から見た俺って、一応魅力ある人だと思われてるのかな?」 「はぁ?」 肇はカッと頬が熱くなって、湊を睨んだ。 「何でそうなるんだ、一般的な意見だろっ」 「うんうん、一般的な意見で、肇もそれを認めていると」 本当に友達に昇格できたみたい、と湊は喜んでいる。バカじゃないのか、と言うと肇は熱くなった顔を手で扇いだ。 「照れてるの?」 「お前が変な事言うからだ」 からかうな、と肇は足を早めた。それでも湊は長い足で、余裕で付いてくる。 そうこうしているうちに、肇の家に着いた。そこではた、と気付く。 「多賀、お前家、どこだよ」 「湊」 つい癖で苗字で呼ぶと、湊はすかさず訂正を求めてきた。言い直すと満足そうに彼は笑う。 「俺の家? 駅の方」 「はぁ? それじゃ反対方向じゃないかっ」 しれっと言った湊に、肇は何で早く言わない、と睨む。湊は涼しい顔で答えた。 「つい楽しくて。肇の家の場所も知れたし」 「お前家に来たらもう口聞かないからな。そういう所だよ、俺がイライラすんの。相手に合わせて遠回りとかするなよっ」 「……肇はホント、真っ直ぐだねぇ」 肇は怒るけれど、何故か湊はますます笑顔になっていく。 「ねぇ、今度純一たちと一緒に遊ぼうよ」 「人の話を聞けよ」 ん? と湊はニコニコしながら首を傾げる。わざとらしい仕草に、肇はますますイライラした。 「俺がそうしたいからここまで来たの。それなら納得する?」 「………………まぁな」 何でだろう、何か納得いかない、と肇は渋々頷く。理由なんていくらでも後付けできる、と肇は思うが、スルーしてやる事にした。 じゃあまた、と湊は手を振って去っていく。明日から学校だから、次に会うのはシフトがかぶった日だろうか。 (何か……充実した夏休みだったな) あんなに嫌っていた湊と、一緒に喋りながら帰る日が来るとは、人生何が起こるか分からない。しかも、素の自分でいる時の、貴重な友達だ。 コスプレしてるときの友達ももちろんいるけれど、それとは違う感覚に胸がじわりと温かくなる。キツく当たっても、めげずに声を掛けてくれた湊は、本当に良い奴だな、と思った。 それなら、彼の恋愛も成就して欲しいところだ、と肇は家に入った。

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