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逃亡
「縄は」
手足は縛られたままだ。
「見計らって俺が解く」
スッと差し出された手に縄は無かった。そして、靴から小型ナイフを取り出した。
「荷台の見張りは2人だぞ」
荷台に一緒に2人の見張りが乗り、馬車を2人が操っているので、全部で4人だ。乗せられている奴隷は8人。
「ディディエ、大丈夫か?」
すぐ横で2歳年上の青年に声をかけられた。
微笑んで頷くと、「もう少しだ」と励ましてくれた。
「何を話している」
掠れた声と共に厚い布が捲られて、先ほどまで見張りをしていた奴隷商のひとりが顔を覗かせた。
「朝まで時間がある。水汲みの仕事だ」
手足の縄をほどくと荷台から降ろされた。縄で擦れて赤くなった手首を掌で擦った。全員が荷台から降ろされ、辺りを見渡すと町にでも着いたのかと思っていたが、そこは荒地を切り開いた木々の間だった。荷馬車のすぐ横には蔦の張った井戸が1つあり、「さっさとテントを張れ」と怒鳴られ、火を起こすように言われた。
明け方、まだ薄暗い中を馬車は出発した。
ゴトゴト揺れる荷台の揺れで心地よくなったのか、一緒に乗っている見張りのひとりはうとうとと居眠りをしていた。もうひとりの男がしきりにその男を起こそうとしている。
それに目を凝らしながら気付かれないように後ろ手に縛られた縄を小さなナイフで縄を切った。足の縄はギリギリまで切ることができない。
見張りのすぐ横に座った青年の合図をじっと待っていた。
『ガタンッ』
大きく荷台が揺れ、少し高い位置に座っていた見張りが「うぁっ」と声を上げた時だった。
すぐ横に座った青年は立ち上がり、さっきまで腕を縛っていた縄で2人の口を塞ぐと同時に腰に挿してあったナイフを取り上げて、仲間に渡した。
次々と足の縄を切ると、動いている荷台から飛び降りた。
8人が降りきる前に馬車は止った。前を走る馬が嘶きを上げて前足を上へと上げるのが見えたが、先を走る男に腕を引かれて、森の中へと走りこんだ。
「急げっ。振り返るな」
大声を上げて前を走る仲間を追いかける。
裸足の足が草や木の根を踏む。
ぬかるんだ地面に足を取られるが、必死に前だけを向いて走り続けた。
『シュッ』
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