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逃亡

「……ぶですか?」  揺さぶられる感覚にゆっくりと目を開けた。  目の前には銀糸の髪の男が跪いていた。 「……っう」  慌てて身体を起こし、後ろに逃げようとしたが、足首と身体の痛みに呻くことしかできなかった。 「逃げなくて大丈夫ですよ。私たちは……」 「イグニスっ。どうした?」  すぐ後ろから男の声がした。銀糸の男が振り返り、つられて見上げると甲冑を身につけた男が艶のある黒い馬から降りて来た。顔を覆う兜で顔は見ることができなかった。 「先ほどの奴隷たちの残りのようです」  近づいた男は、「治療を施して同行させろ。仲間たちはすでに発った後だ」と言った。  発った後? 仲間達?  聞きたいことはあるのに、喉が張り付いて言葉を発することができない。手で喉を押えると、イグニスと呼ばれた銀糸の髪の男はゴソゴソと腰の辺りを探って、「水ですよ」と水筒を口に当ててゆっくりと水を飲ませてくれた。  口端から大分零れてしまった。 「……ありがとう、ございます」  状況はわからないが、水を飲ませてくれたお礼を伝えると、「シャルール様。この子は私が預かります」と後ろに立つ男に伝えた。 「ああ。頼む」  甲冑の男はそう言うと振り返って馬を連れて離れて行った。 「あなたが見つけられずに、ほかの7人はすでにエクスプリジオンに向けて発ってしまいました。私たちはエクスプリジオンからスオーロとの境にある湖に……」 「スオーロへは戻りたくないっ」  銀糸の男の服を掴んでそう言うと、「ええ。どうやらあなたは奴隷のようですね。亡命が希望だと仲間の方から聞いています。渡したりはしません。ただ、先に兵を連れて発ってしまったので、これ以上兵を減らすことはできません。私たちがエクスプリジオンに帰るまでは、同行してください」落ち着いた優しい声で言われて、小さく頷いた。 「傷の手当をしましょう」 「……本当にエクスプリジオンに連れて行ってもらえるんですか?」

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