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逃亡
イグニスがシャルールの掴んだ腕を解いてベッドに再び座らせた。
「わかった。明日の朝にしよう。イグニス。そいつにしっかり食べさせてやれ。せめて歳相応に育たせろ」
シャルールはそう言うと部屋を出て行った。
「悪い人ではないんですよ」
イグニスはクスクス笑いながら言った。
「私も着替えてきますから、ゆっくりしてください」
イグニスもシャルールを追いかけるようにして出て行った。
ほうっとため息を付いて身体から緊張を解いた。
仲間と離れてしまったとはいえ、無事に脱げ出すことはできた。ここは今までいたところよりも随分と安心できる。
「こんな服、はじめて着た」
なんとも落ち着かない。ベッドから立ち上がると今まで着ていた服を浴室に持って行き、洗った。けれど、あちこち敗れていて着る事はできないようだ。
用意してもらった服は少し濡れてしまったが、気にするほどのことも無かった。
静かな部屋についキョロキョロと見渡してしまう。柔らかいベッドに座っても落ち着かなくて、部屋の窓から外を眺めていた。
小さな町は今いる宿を挟んで向かい側に同じような宿が建っている。飲み屋と食堂を兼ねている建物が1つあって、その向こうは森へと続いていた。宿と同じ並びにも数軒家が並んでいて、その先に広場が見えた。そこに兵士たちは集まっていて、タープやテントを建てているのが見えた。
その中にイグニスの姿も見えた。
イグニスは防具を脱ぎ、僕が着ているものと同じようなドレープの入った服を着ていた。兵士たちも同じような格好だ。
笑い合う様子も見える。
そこへ赤い髪のシャルールが現われると、兵士は一斉に地面に膝を付いた。シャルールが何かを言って手を上げると、兵士たちは作業の続きを始めた。
遠くから見てもその姿は目立つ。
赤い髪なんて初めて見た。
イグニスのように銀糸の髪は少ないにしてもこれまでも見たことはあった。
よく見れば兵士の中にも茶褐色の髪は見える。
自分の黒い髪はスオーロでは一番多かったが、兵士の中には数人しかなく、茶色や茶褐色が多かった。
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