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逃亡

 兵士の大半は僕が昨日保護した奴隷だと知ってはいたが、シャルールは「ブルーメンブラッド出身のディディエだ。エクスプリジオンへの客人だ」と紹介した。すぐに、昨日の2人組みが紹介された。  この先にある湖、竜の棲む湖と言われている湖の杜人の青年で、人探しのために旅立ったばかりだと言った。 「イグニスと同じ森の杜人で、フェルメだ。そっちは従者のグルードだ」  2人は軽く会釈をした。  フェルメはこれまで見たことも無いほどに美しい青年だった。紹介された時に脱いだフード付きのマントをすぐに羽織ってしまったが、兵士たちがその容貌に浮き足立ったのは感じ取れた。  そして、何か優しい香りがした。  朝食を終えると、「先方の様子を探るのにもうしばらく時間がかかるので数日ここに滞在する」とイグニスから教えられた。 「イグニスさん。僕にできることがあればお手伝いします」 「まずはその傷を治すことが先ですね。それが治ったらお願いしましょう。これまではどんな仕事をしていたんですか?」  側の椅子に座るように言われてイグニスと向かい合わせに座った。 「掃除と馬の世話です」  これまでの主人は数人の奴隷を雇っていて、庭師や料理人もいた。若い僕は年老いた馬番の手伝いをしていた。 「馬の世話役は足りないくらいだからとても助かります。気性の荒い馬ばかりですが、大丈夫ですか?」 「これまでの主人の馬もちょっと暴れる馬だったので大丈夫だと思います」 「それはよかった。傷が治ったらお願いします。足は大丈夫ですか?」  捻った足は腫れも引いて昨日より大分よくなっていた。治癒が早いのはきっとイグニスのおかげだろう。 「ありがとうございます」  イグニスは僕の足を撫でる。そこがフワリと暖かくなる。 「こちらの方は怪我をされているのですか?」  真後ろから声がして振り返るとフェルメが従者と共に立っていた。 「ええ。事情がありまして」 「私が手当をしましょう」  フェメルは僕の前に回った。 「いえ、フェルメ様に……」 「これくらいかまいません」  イグニスが恐縮するのが分かって、「僕は大丈夫です」と身を引いた。 「大人しくしなさい」

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