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逃亡

 強く言われて体が萎縮した。怒鳴られたわけではないが、身についた奴隷の性だろう、強く言われると従ってしまう。大人しくしているとフェルメはフードを取り、顔を出した。  捻った足をフェルメがイグニスと同じように撫でた。 「ち、ちょっと……熱いっ」  イグニスとは違う熱さに驚いて後ろに下がった。「熱い?」  フェルメは首を傾げて手を引いた。 「少し力が強すぎた」 「あ、ありがとうございます」  フェルメは立ち上がるとまたフードを深く被ってしまった。そして、後ろにいた従者に何か話すと会釈をして静かに離れて行った。 「何か気に触ることでも……」  何かしてしまったのかとイグニスを見つめるが、「大丈夫ですよ」と言って頭を撫でられた。  振り返るとフェメルは立ち止まり、こちらに向かっていたシャルールと話をして3人で宿へと入って行った。  熱く感じた足は痛みが引いてはいたが、まだ熱く熱を持っていて、そこを擦ると、「大丈夫ですか?」とイグニスが心配してくれた。 「イグニスさんがしてくれたのと違っていて驚いただけです」  やり方は同じだったのだろうけど、フェメルとの違和感は否めなかった。 「そうですか」  翌日には普通に歩けるようになり、イグニスに馬場に連れて行ってもらった。  馬場は数人の兵士が馬の毛並みの手入れや餌やりをしていた。 「馬は全部で22頭。餌は朝と夕方に1回。水は切らさないように……」  今回の遠征で馬を預かっている彼はアウルム国出身のガジューと言った。僕と同じ黒髪に黒い瞳でガッチリとした体躯でいかにも兵士という態だった。 「この馬はとても綺麗ですね」  引き寄せられるように近づいた馬は、僕を助けてくれた時にシャルールが乗っていたものだ。  黒く艶のある馬はじっと見つめている。撫でようと手を上げると、「触るなっ」と怒鳴られて咄嗟に手を引いた。  ビクッと身体を強張らせると、「ああ、別に怒ったわけじゃない。この馬は気難しくて、シャルール様と数人の者にしか触らせないんだ」と説明してくれた。 「安易に触ると暴れたりするから」 「そうですか。すいません。気をつけます」

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