17 / 167

逃亡

「はい」  ガジューは返事をして、シャルールに深々と頭を下げた。  シャルールは毎朝、出発の指揮を取る会議や朝食の時間よりも先に、スレアのブラッシングを行っているらしい。スレア専用のブラシで頭の先から尾の先まで丁寧にブラッシングをして、水と餌を与えているとガジューに教わった。  イグニスのサラエという馬はスレアとは異母兄弟の馬で、同じく黒い。その馬の世話もすることになった。  翌日の朝早く、1人で馬小屋に行き、すでに起きていたスレアに声をかけてブラッシングを始めた。スレアは従順に言うことを聞いてくれた。  スレアの小屋の入口にフードを深く被ったフェルメが立っていた。 「おはようございます」  声をかけると、フェルメは、「おはようございます。一昨日はすいません。足の具合はどうですか?」とフードを取った。 「すっかり良くなりました。ありがとうございました」  僕が頭を下げると、「それはよかった」と言ってスレアに触れた。 「あ……」  僕が思わず声を上げると、フェルメは僕を見つめた。 「スレアは気性が荒くて、あまり触らせないと聞いていたので……」  スレアは大人しく撫でられていた。 「そのようですね。私たち森の杜人は動物達にはあまり警戒されないのです」  その癒しの能力なのだろう。  フェルメは僕の腕を掴んだ。  急な行動に驚いてその手を払い除けてしまった。 「お前は何者だ?」 「……何者って……」  聞かれたことの意味が分からなくてフェルメを見つめた。 「出身地はどこですか?」 「何故聞くんですか?」  スオーロと言えば僕が奴隷であることは明白だろう。国交も殆ど無いスオーロからエクスプリジオンの兵に連れられていれば余計に。 「私たちはある人物を探している。歳はあなたと同じくらいです。可能性があるならば確認したいのです」 「……僕は、スオーロ出身です。今はエクスプリジオンに亡命するためにこの兵団に保護されています」  正直に話したのにフェルメの表情は険悪になった。 「それは失礼しました」 �

ともだちにシェアしよう!