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逃亡

 フェルメはフードを被ると踵を返して馬小屋を出て行った。  フェルメの行動がいまいち分からなくて戸惑った。もしかしたら、フェルメは奴隷を嫌っている人種なのかもしれない。  奴隷撤廃をエクスプリジオンは掲げている。しかし、国民の中には奴隷を忌み嫌う人たちも多数いる。  安易に出身地を教えるのは避けることが多いのはそのせいだ。  スレアがブルルっと嘶きを上げて我に返った。 「ああ、ごめん。すぐに……」  手に持っていた専用の櫛でブラッシングを再会した。  両親共に奴隷だという子どもは少なくない。僕だってその1人だ。母は幼い頃に亡くなり、父は数年前に雇い主に殺された。  詳しい理由は分からないが、因縁をつけられて理不尽に殺されたと仲間から聞いている。  父親は僕を隠して育てた。奴隷の子どもは身売りさせられることが多い。攫われて売られることだって少なくない。父親は僕の存在を隠していた。狭い長屋で父が帰ってくるのだけをひたすら待っていた。  数日待って帰って来ない父を迎えに行き、そこで教えられたのは父の死だった。  長屋に隠れていたが、すぐに見つかり奴隷として小さな屋敷で働くようになった。数箇所を転々とし、奴隷仲間もできたが、怪我は耐える事無く、不衛生で空腹を耐える日々は続いた。  スレアのブラッシングが終わり、サラエの小屋に行くと、ガジューが朝の餌やりに来ていた。 「ガジューさんはアウルム出身だと言ってましたけど、どうしてこの兵に……エクスプリジオン国に来たんですか?」  ガジューは餌槍を続けながら、「俺は、アウルムでは採掘場で働いていたんだ」と小さく呟いた。 「採掘場?」  アウルムは宝石や鉱石、石油などの資源の豊富な国だ。そこに売られていく奴隷も少なくない。 「俺の母親はスオーロの奴隷だった。親父の……妾だったんだ。親父には他にも妾はいたが、子どもが生まれたのは母親と本妻だけで俺は隠し子で……」  ガジューは持っていた餌の入ったバケツを床に置くと腰に巻いていた布を解いて、上の服を少しだけ捲って、「俺も奴隷だったんだ」とそこに残されたケロイド状の傷を見せた。すぐに服を直すと、「シャルール様が俺を助けてくれた」と言った。  奴隷印なんて人に見られるのを嫌う。 「ご、ごめん」

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