25 / 167
龍神の杜人
「ああ。普段は水に抑制されてないから平気だ」
シャルールの側に寄ると、シャルールが僕の肩に手を置いた。水に浸かったわけではないが、水遊びで服は濡れていて、冷えた身体に布越しでもシャルールの手は熱く感じた。
「お前、何ともないのか?」
シャルールは小声で力なく呟いた。じっと足元の水を見ている。
「もう、出ますか?」
抑制されている中で水の中に入ったのがいけないのだろうか、明らかに声に力が無い。
「ああ」
慌てたように動いたシャルールに驚いて、足を砂に取られてしまった。後ろに転びそうになるのを慌てて目の前の白いシャツに縋ってしまった。
『バシャッンッ』
大きな音とともに水飛沫が上がり、慌てて水の中から顔を出して、咳き込んだ。
目の前のシャルールも咳き込みながら水の中に座っていた。
「す、すいませんっ。大丈夫ですか?」
「全身ずぶ濡れだ」
「ごめんなさい」
謝るとシャルールは、「俺も慌ててしまったからな。悪かった」と謝って立ち上がった。
そして僕の腕を取ると引き上げて立たせてくれた。
ふっと近づいた。
「なんですか?」
シャルールが顔を覗き込んできたのだ。
「お前の目……そんな色だったか?」
「え?」
そんなことを聞かれても今は鏡もない。湖の水が目に入って赤くなっているのかな。
「見間違えか? 一瞬銀色に近いグレーに見えたんだが……気のせいか。なんとも無い」
じっと赤い瞳に見つめられてたじろいだ。
シャルールはじっと僕の瞳を見つめている。端正な顔が間近にあって緊張に身体は動かなかった。
「……さすがにこのままじゃ風邪を引く。上がるぞ」
シャルールは引き立たせるために掴んだ僕の手を繋いだまま砂地へと引っ張っていった。
森の道の入口の木にはスレアが待っていた。
シャルールは濡れてしまったシャツを脱いだ。
浅黒い肌が露出して、慌てて視線を外した。シャルールの身体には無数の傷跡があって、右肩からわき腹にかけて赤い炎をモチーフにしたような刺青が入っていた。
「お前も脱げ。そのままじゃ風邪を引くぞ」
「ぼ、僕は大丈夫です」
ともだちにシェアしよう!