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龍神の杜人
イグニスが乗せてくれるように、シャルールの前に並んで跨った。背中にはシャルールの体温を感じた。
森の中をここまでやってくる時には軽装とはいえ甲冑を身に着けていたが、今は互いの薄いシャツだけだ。
スレアの歩く振動で背中がシャルールの胸にどうしても触れてしまう。
湖を回るように宮殿まで小道は続いている。木々の間から湖が見え、あの大きな龍の石像も見えた。
「あの石像には近づけるんですか?」
とても大きく立派な龍の石像。
またここへ来られるとは限らないから、できることなら近くで見てみたいと思った。
「宮殿にいる杜人に頼めば見せてもらえる。見たいのか?」
「こんな所に来れることは滅多に無いですから、近くで見たいです」
希望を伝えるとシャルールは、「そうだな。明日の朝にでも見られるように頼んでやろう」と快諾してくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言うとシャルールは、「容易いことだ」と笑った。その息が髪を擽る。
濡れて乾いたばかりの髪はフワフワと揺れる。
急に頭にシャルールが頬ずりをするように鼻を押し当てた。
「な、何するんですか?」
「別に。お前の髪は柔らかいな」
別にで済まされる行為ではなく、「止めてください」と抵抗すると、「馬から落ちるぞ」と手綱から片手を離して僕のウエストに腕を回した。ますます密着されて、他人の体温をここまで近くで感じたことない僕は緊張して動けなくなってしまった。
「本当に女みたいなやつだな」
シャルールは呟いて、「お前、馬は扱えるのか?」と聞いた。
「いいえ。え? シャルール様?」
後ろから急に僕に身体を持たれさせてきたシャルールに驚いて振り返ろうとしたが、肩に額を預けられて振り返ることはできなかった。
「じゃあ、手綱だけしっかり持って……俺を支えていろ……スレアは賢い」
「ち、ちょっと、シャルール様?」
「……力を、使い過ぎた……」
「だ、大丈夫ですか?」
慌てるが、シャルールは返事をしない。シャルールは片手で持っていた手綱を僕に持たせると、片手を上げて先ほどよりも小さな火の鳥を作り出すと宮殿の方へと飛ばした。
「……イグニスが来る」
そう言うと僕のウエストに両手を回して動かなくなってしまった。
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