28 / 167

龍神の杜人

 水に入ったのも、火の鳥を出して乾かしてくれたのも、水の力に抑制された中では大きな負担だったのかもしれない。  シャルールが落ちないように気をつけながら、スレアに任せて宮殿へと向かう。 「スレア。ごめんね。少し急いでくれると助かるよ」  どうしたらスレアを急かす事ができるのか、走らせることができるのか分からず、スレアに話しかけた。  ゆっくりだった歩調が、言葉が通じたのか速くなった。 「ありがとう。スレア」  手綱を握り締めてシャルールを落とさないようにウエストに回された腕を押えるようにして脇を閉めた。  森の中を通る小道は徐々に開けて行き、宮殿が見えた。 「シャルール様……ディディエッ」  イグニスの声がして宮殿の方から馬に乗った兵と共に走り込んで来た。  スレアは驚くこともなく歩調を緩めた。 「ディディエ……大丈夫ですか?」 「僕は大丈夫ですが、シャルール様が……」  僕の手から手綱を取ると、スレアを止めてイグニスはその手綱を持ったまま自分の馬から降りた。一緒に来ていた兵がイグニスの馬を預かる。 「迎えに来たのですよ。ディデイエ、何があったのですか?」  イグニスはぐったりしたシャルールを馬から降ろした。 「ちょっと、水の中に……」  小声で言うと、「泳いだのですか?」イグニスは驚いて声を上げた。 「い、いえ。僕が転んだのに巻き込んでしまって……ごめんなさい」  イグニスはシャルールを兵に預けて馬に乗せると、僕をスレアから降ろしてくれた。 「全く……何事も無くてよかったです」 「ごめんなさい」 「シャルール様がおられるから大丈夫とは思いましたが心配しました。とりあえず、宮殿に戻りましょう」  イグニスは馬に跨ると僕を引き上げて乗せてくれた。  スレアは後方をゆっくりと着いて来た。 「やっぱり、水に入ったのがいけなかったんですか?」 「それもありますが、能力が抑制されている状態にあることも関係あるでしょう。理由は定かではありませんが、消耗が激しいようです。力を過信しすぎたシャルール様の自業自得ですから、あなたが気に病む必要はありませんよ」  イグニスは笑って、「急いで帰りましょう」と兵を急がせた。

ともだちにシェアしよう!