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龍神の杜人

 水の宮殿は白い外壁と同じように内壁も白く、明るく清潔感に溢れていた。宮殿内は至る所に水路があり、水が流れている。シャルールは宮殿に着いてすぐに部屋へと運ばれて行き、森の杜人達によって能力を回復してもらった。僕は宮殿横にある脇殿に通されて、個室を与えられた。  シャルールは大丈夫だっただろうか。  イグニスがここへ来る途中で何度かシャルールを回復させるところを見たが、返事も出来ない程に弱っているのは初めて見た。  それだけこの場所がシャルールにとって苦手な場所であることは理解できた。  部屋の窓からは湖が見える。既に暗くなり、宮殿の明りが湖面に映し出され、その先は霧がかかっていて、龍の像は見えなかった。  シャルールが近くで見せてもらえるように頼んでくれると言っていたが、今日の様子じゃ無理だろう。それに、仕事に影響する可能性もあるから、無理は言えない。  シャルールとイグニスの部屋は宮殿の中にあるらしく、ここからは離れていて、シャルールがどうなったのかは分からない。勝手に宮殿内を歩き回ることも注意されている。  ここは森の杜人が差配しているから勝手な行動はできないのだ。  部屋はベッドが1つ置かれただけの簡素なものだ。そのベッドから薄い布団を剥ぎ取ると身体に巻きつけて床に座った。兵士たちと共に夕食を済ませ、大浴場での湯浴みは避けて部屋で身体を拭いた。寝巻きは兵士たちが着ている物と同じものを借りたが、身体の小さい僕にはとても大きく、袖や裾をだいぶん巻き上げている。  1人きりで寝るのにも大分馴れたが、フカフカしたベッドにはどうしても馴れる事ができない。身についた習慣だろう。  静か過ぎるの にもなかなか馴れる事ができない。  馬に揺られて、兵たちの声を聞きながらイグニスに支えられて眠るのが一番良く眠れた。  エクスプリジオンに先に発ってしまった仲間は無事に到着できただろうか。  亡命を果たすことができただろうか。  不安は尽きることが無い。  床に蹲ったまま目を閉じた。  湖に吹く風が湖面を揺らして、水が波のように音をたてる。その音に眠気を誘われた時だった。 『…………』  目を開けて周りを見渡すが、誰もいない。  立ち上がって窓を開けるが、その声は聞こえなかった。  確かに聞こえた。

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