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龍神の杜人

 何を言っているのか理解できなかったが、低く地を這うような掠れた声。 「……誰?」  呼んでも返事は無い。  寝ぼけていたわけじゃない。湖で遊んでいた時にも聞こえた。あの声と同じだった。  僕を呼んでいるのか、他の目的があるのか。  不気味な声に窓から顔を出して辺りを見渡すが人の気配は無かった。  宮殿も脇殿も石造りで隣の声は聞こえない。窓から微かに湖の小波の音がする程度だ。  部屋の明りは古いランプが1つだけ。  1人きりが怖いわけじゃ……ない。  不気味な声に不安が募る。  開けた窓を閉めて、念の為に鍵も掛けた。  身体に巻きつけた毛布を握り締めて、部屋の入り口に向かう。そっとドアを開けて廊下の様子を伺うが誰もいない。  部屋にある古いランプと同じランプがボウッと廊下を照らしているだけで、誰もいない。  兵士たちはこの並びの部屋にいるはずだが、既に夜も遅く、静まり返っている。  このまま起きていても怖い。  シャルールやイグニスに声が聞こえたことを知らせた方がいいだろうか。  もしも、敵兵や隣国が襲われているような声だとしたら一大事だ。でも、それなら僕だけに聞こえたはずじゃないから、兵が騒ぎ出しても良さそうだ。  湖でも聞こえたから、不安になるようなことではないのかもしれない。  廊下の様子を伺っているが、兵は誰一人出てくる様子は無い。  僕だけしか、聞こえなかったってことだろうか。  握り締めていた毛布をベッドに戻すと部屋のランプを手に取ってそっと廊下に出た。  勝手に宮殿内を歩き回ることは注意されていたが、周りを伺うようにしてシャルールとイグニスの元に向かった。  薄暗い廊下を進み、脇殿から外に出た。宮殿の入口はすぐそこあった。脇殿からは簡単に出ることはできたが、宮殿の入口は鍵が掛けられている可能性がある。  大きな木製のドアを押してみると、簡単にそのドアは開いた。  開いたドアの間からは煌々と光が溢れ、薄暗い外から中を覗いた僕は目が眩むほどだった。 「誰だっ?」  急に声が掛けられて驚いて手に持っていたランプを落としかけて慌てて掴んでしまった。 「熱っ」  パッと手を離すとランプは綺麗に磨かれた石の床に叩きつけられて大きな音が響き渡った。 「そこで何をしている」

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