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龍神の杜人
イグニスはそう言って僕の横に並んだ。
「奴隷が客人ですと?」
「彼はスオーロから我がエクスプリジオンに向かっている途中で我々が保護した客人です。『奴隷』などと軽々しく口にしないで頂きたい」
イグニスは普段には無いきつい口調だ。シャルールは引き寄せた僕の後ろから両肩に手を乗せて、「彼が粗相を犯したのであれば代わりに詫びよう」と話すと、「いえ、そのようなことは」と男達は頭を下げるようにして身を引いた。
「どうも気分が悪い。イグニス、俺はディディエと共に脇殿へと居を移す。後は任せる」
シャルールは僕の肩を掴んだまま宮殿の外に出た。
途端に大きなため息を溢したシャルールは、「勝手に歩き回るなと注意されていただろう」と呆れたように言った。
「ごめんなさい」
「何で宮殿に来たんだ?」
シャルールが脇殿へと向かって行くので、僕は後を追った。
「変な、変な声が聞こえて……」
「声?」
「外から聞こえたんだと思うんですが……それが、昼間も湖で聞こえてきて」
シャルールは脇殿へと入って行き、「お前の部屋はどこだ?」と振り返った。
「僕の部屋は2階の……」
部屋を告げるとシャルールはまた早足で進み出した。
「その声がどうしたんだ?」
「僕だけしか聞こえていないんですか?」
「質問で返すな」
シャルールは僕の部屋のドアを開けて中に入ると、どっかりとベッドに座った。
「どんな声だったんだ? 内容は?」
シャルールは組んだ足に肘を突いて頬を乗せた。
「低くて掠れた声で、なんて言っているのかは分かりませんでした」
「…………それで?」
明らかに不機嫌な声で返された。
「何か遠くで起こっているのではないかと……不安になって……聞こえませんでしたか?」
「そんな大声が聞こえていたら何かしらの対策を取る。戦などの報告も受けてはいない。お前だけに聞こえるというのも不思議だが……明日、兵達に確認してやる」
シャルールは小さくあくびをすると、「もう、明日でいいだろう?」と呟いてベッドに置いていた僕の布団を引き上げると横になってしまった。
「ち、ちょっと、ここで寝るんですか?」
「変な声が聞こえて怖いんだろ?」
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