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龍神の杜人
枕に顔を半分埋めたシャルールの声はくぐもっている。布団からは赤い髪がはみ出ている。
「ほら、こっちに来い」
シャルールに呼ばれても部屋の入り口に立ったままだ。
「ここに泊まってやる。声が聞こえたらすぐに分かるだろ。それに、お前にしか聞こえないのかどうかも分かるだろう」
そう言うとシャルールは起き上がって、「さっさと来い」と不機嫌に言った。
来いと言われてもそのベッドは一人用で狭い。体格のいいシャルールが寝ればいっぱいだ。
ここへ来て殆ど床で寝ていたから、シャルールがベッドで寝ても構いはしないのだけど、布団は1つしかない。
「僕、布団を借りてきます」
部屋を出て行こうと踵を返すと、「さっさとここに来い」と強い口調で言われてしまった。
ベッドの側に寄った僕をシャルールは布団を捲って引き寄せた。
布団と一緒で枕は1つしかない。
「お前、冷たいな。落ちるなよ」
そう言って抱き締める様にして腕を回した。
「ち、ちょっと……」
他人の体温をこんな近くに感じて緊張しないはずはない。
「今日は、疲れた……大人しく寝ろ」
シャルールは僕の髪に顔を埋める様にして大人しくなった。すぐに寝息に変わる。
湖からの帰り道のことを思い出して、まあ体力が戻っていないということだろうと理解した。
シャルールは体温が高い。薄い布団だけでは肌寒とも感じたけど、シャルールに抱き締められていると寒さは感じなかった。
耳に届く寝息。
さっきまで静か過ぎて落ち着かなかったのに、その寝息を聞いて、抱き締められていると何故だか落ち着いた。
あの声が何かは分からず不安に揺れていたけど、シャルールがいてくれれば大丈夫な気持ちなれた。
息を吸い込んで目を閉じた。
頭の上から声が聞こえる。それはこれまでのように騒がしくは無く、静かなやり取りだ。
フワフワと浮いた感覚と肌寒さに目の前の温もりに擦り寄った。朝日に照らされて暖められた毛布だろうか。肌触りのいいそれに擦り寄ると背中を軽く叩かれた。
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