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龍神の杜人

 こんなことをする人物は思い浮かばない。 「……ディエ、そろそろ起きろ」  もう仕事の時間だろうか。いつものなら怒鳴るように起こされるのに……。 「起こさずともよいでしょう」 「俺が仕事をしなくてもいいならな」  その会話に慌てて目を開けて起き上がった。 「ご、ごめんなさいっ」  目の前には肘を付いて寝そべったままのシャルールとしっかり身なりを整えてその横に座っているイグニスがいた。 「まだ眠たいなら寝てていいぞ?」  シャルールは笑いを堪えてそう言った。 「ディディエを出汁にあなたまで寝坊しないでくださいよ」 「こいつが離れなかっただけで、俺は起きてただろう」  イグニスは座っていたベッドから立ち上がると、「もうすぐ朝食です。遅刻されませんように」と言って部屋を出て行った。 「イグニスが言ってたが、お前、寝てないのか?」  シャルールは起き上がってベッドに座ると寝癖の付いた赤い髪を手ぐしで直した。 「寝てますけど」  熟睡できるほどじゃないってくらいで、寝てはいる。 「イグニスが馬で寝るなと嘆いていたぞ」 「そ、それは……すいません。気をつけます」 「何で眠れないんだ?」  狭いベッドに2人で座るには無理があって、僕はベッドから降りた。 「眠れなくは無いんですけど……静か過ぎて落ち着かないんです。ベッドも殆ど使った事が無くて」 「今までどんなところで生活していたんだ?」 「僕がいたところは数人の奴隷たちと一緒に地下の倉庫のようなところで寝起きしていたんですけど……他の仲間に聞いたら、もっと酷い扱いを受けていて……」  シャルールはベッドから降りると、「暴力を受けている者もいると聞いている。同じ人間として不同な扱いを受けていることは遺憾だ」と呟いた。  同じ人間……。能力者として高貴な位を持ち、国王兵団を率いているシャルールが口にする言葉ではないことぐらい僕にも理解できた。 「シャルール様は、奴隷をどう思っているのですか?」 「同じ人間だと思っている。蔑みや差別、不同な扱いを受けるべきではないと思っている」 「なぜ?」

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