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龍神の杜人

 1人の兵に聞いて、馬に餌を与え、ブラッシングをしながらシャルールが現れるのを待った。馬達も普段とは違う緊張した雰囲気に落ち着きが無い。手の開いている兵がブラッシングを手伝ってくれた。  ざわざわと馬場周辺は騒がしい。兵たちも自国が心配なのだろう。話したりうろついたりしながら落ち着きが無い。  砂を蹴る数人の足音が聞こえ、兵達が無言になる。慌てて馬場から出るとシャルールと森の杜人数人が立っていた。 「先ほどエクスプリジオンから知らせが届いた。国王が死去された」  シャルールの言葉に驚きに息を呑む。 「まだ数人しか知らないことで、国民には伏せてある。何者の仕業かはまだ分からぬ。俺が留守にしていたのを狙ってのことだろう。次期国王はまだ推挙されていない」 「それなら……」 「話は終わっていない」  声を上げた兵にシャルールは一瞥して黙らせる。 「スオーロ国がアウルム国へ兵を出したと密告があった。手を組むのか戦を起こすのかはまだ分からない。我々は急ぎアウルム国へ向かう」 「アウルムへですか? ここからならスオーロの方が近いですが」 「まだ戦になると決まったわけではない。スオーロが挙兵するのであれば、エクスプリジオンにより近いアウルムの後ろ盾が必要だ」  アウルム国は錬金や採掘など、武器を作る細工などに長けた国だ。もし、武力や戦術に長けたスオーロと手を組まれたら、エクスプリジオンはその脅威に曝されることになる。 「エクスプリジオンへは早馬を出す。イグニスはエクスプリジオンにいまだ到着していない先発の兵の行方を追っている。動向が分かり次第、我々と合流する。国王が死去されたことは国民には伏せてある。国内で暴動が今すぐに起きることは考え難い。我々は取り急ぎ、アウルムへ移動する」  兵たちは未だに落ち着かない。  それに、シャルールがなぜ森の杜人を連れて来たのかも謎だ。シャルールは兵達に手を上げて兵を黙らせると、「戦となった場合、この地の保護と護衛を約束した」と告げた。  戦となった場合のエクスプリジオンとの境にある休戦地帯はあって無いようなものとなる。そうなった場合、ここが戦場となり水源を奪い合うことになるのは必至だ。先手を打つということだろうか。 「戦となった場合、我々エクスプリジオンは2千の兵をここに留置する」 「に、2千もですか?」  驚きの声が上がる。 「世界の水源はここだ。いざとなれば我々の手中となる。森の長も承諾している」 「しかし……」 「捕虜としてイグリアを残す」

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