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龍神の杜人

 イグリア? キョロキョロと周りを見渡すと、それらしき人物が兵達の前に進み出て、シャルールの前で肩膝を付き、頭を垂れた。 「すでにこの命捧げた身。仰せのままに」  イグリアは腰に差した短剣を両手で恭しく掲げた。シャルールは掌を上にして掲げると小さな炎を出し、「加護を」と炎を押し付けた。兵の後ろからその様子を見ていたのでよく見えなかったが、剣は赤く色づいてすぐに元へと戻っていた。 「2時間後には出発する」  シャルールはそう言うと、森の杜人たちと宮殿へと向かって行った。  既に早馬でエクスプリジオンに向かう兵は決まっていたらしく、軽装の兵は用意されていた馬で早々に出発した。  ガジューと一緒に馬具を取り付けながら、捕虜となるイグリアのことを聞いた。 「イグリア様はイグニス様の末の弟だよ。シャルール様の従者の1人で……」  ガジューは少し言いにくそうにして、「ご寵愛を受けているって噂もある」と小さく耳打ちした。 「えっ……でも、男の人だよね?」  さっき見たイグリアは線が細く、若くもあったけど、明らかに男だった。 「噂になるくらいだから何かあるのかもしれないけど、イグリア様は熱心に尽くしているよ」  イグニスと兄弟なら同じ能力を持っているということだろうか。 「杜人なの?」 「イグニス様とは腹違いで、能力は持ってないよ」  確かに森の杜人の特徴でもある髪は銀糸ではなかった。だけど、イグニスによく似た美青年ではあった。 「ディディエ。急ごう」  馬場に集まっていた兵士たちも手伝って、馬具を取り付けていく。  部屋に荷物を取りに行っていた兵士たちは軽装を身につけ、再び集まってきた。 「ディディエ。荷物を取って来いよ」  ガジューに言われて、部屋に荷物を取りに行った。荷物は与えられた服だけで、特に無い。小さな袋に押し込むとすぐに部屋を出た。 「あなたがディディエ?」  部屋の前にはイグリアが立っていた。 「はい」  イグリアは、「シャルール様に近づかないで」と睨みつけた。  意志の強そうな瞳に睨みつけられて、たじろぐ。 「僕は、近づいてなんて……」 「シャルール様は昨日、ここに泊まったのでしょう?」

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