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龍神の杜人

「それは……」  怖がったからなんて恥ずかしくて言えない。 「シャルール様は気に入った相手なら誰にでも優しくしてくれるからね」  意味ありげに口端を上げて笑う。 「取り入ろうなんて馬鹿なことを考えないほうがいいよ。君は奴隷なんだから。エクスプリジオンに亡命してもそれは揺るがない真実だからね。奴隷印があるんだろう?」  イグリアは僕の服の肩を掴むとぐっと引き降ろした。慌ててその手を振り払ってイグリアと離れた。  肩を押えて服を引き上げる。 「取り入ろうなんて思ってないです」 「どうかな。奴隷から解放されるためなら何でもするんじゃないの?」  後ろにもう一歩下がると扉に背中が付いた。廊下にはイグリア以外に人はいない。皆、馬場へ向かったのだろう。 「そんなことしない。僕たちはただ、自由になりたくて……」 「自由って何?」 「虐げられる生活じゃなくて、人間らしい生活がしたくて……」 「人間らしいって何? 雇われている身なんだから虐げられも文句は言えないんじゃないの?」 「そんなことはない。あなたは奴隷たちの生活を知らないからそんなことが言えるんだ。幼い頃から掃除や洗濯、水汲み……」 「そんな話をしてシャルール様の同情を引いたの?」 「そんなことしてない。僕はエクスプリジオンに連れて行ってくれるというからこの兵に連行しているだけで……」  言い返すがイグリアは嫌な微笑を浮かべたままだ。 「ガジューとも仲良くしているみたいだし……奴隷って、身体を売って楽しようとしている奴だっているんでしょ? 君みたいに媚を売るのが上手いとそういうことも上手いんじゃな……」 『バシンッ』  誰もいない廊下に乾いた音が響き渡った。 「そんなっ、そんなことしてないっ」  大声で叫ぶ。  強制され、手ひどく扱われ、自害した仲間だっていた。薬を使われて廃人のようにされた仲間もいた。  そういう奴隷ばかりが集まった町の溜まり場。汚臭が漂い、劣悪な環境の中で死んでいった者。生活している者、生まれてくる命。 「誰がっ、誰が望んで……誰がそんな生き方を……」

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