42 / 167
彼の地へ
「ここでしばらく休憩を取る」
シャルールはスレアを木に結びつけると、片手を上げて小さな火の鳥を作り、森の奥へと飛ばした。
「イグニスへの伝書鳩代わりだ」
シャルールはそう言うと、着ていた防具を脱いだ。僕も防具を脱ぎ、ようやく重さから開放された。周りの兵たちも防具を脱いで、馬から鞍を降ろしていた。
「昼間に移動すると目立つからな。少し日が翳ってから先に進む」
兵士たちは言われなくても心得ているのだろう。シャルールが指示を出すより先にそれぞれに休憩の準備をしていた。
「重かったのか? 赤くなってるぞ」
シャルールが防具の重さで擦れて赤くなった肩を指差した。
「重たいですね」
こんなに重たいものだとは思わなかった。シャルールや兵士たちはこれを着て、馬を操り、剣を振るのだから日ごろの鍛錬が知れた。
「これはまだ軽いほうだ」
馬に揺られたせいもあって、肩には赤く擦れた傷ができていた。
「ちょっと待っていろ」
シャルールは他の兵士のところへ行くと何か話をして、僕を指差し、小さな箱を受け取ると戻って来た。
「そこに座れ」
指差された木の根元に座ると、シャルールがすぐ横に座った。手に持っていた箱は救急箱だった。
「じ、自分でします」
シャルールの手からその箱を取り上げると、急いで立ち上がった。
肩を治療するとなると、服を下げなければならない。服を下げれば見られるかもしれないと慌てた。
「女じゃないんだからそれくらい大丈夫だろう」
服の肩を押さえたことで、シャルールは僕が肌を出すことを嫌がっているとすぐに察した。
「そ、そんなんじゃないです」
「背中まで傷があるのにどうやって治療するんだ?」
「そ、それは……大丈夫ですから……」
背中の方まで見えたのだろうか。痛むのは肩だけで、背中には傷はできていない。あるとすれば、それは……。
「ディディエ。もし、お前の身体に奴隷印があっても、エクスプリジオンに着いたらすぐに消してやる」
ともだちにシェアしよう!