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彼の地へ

 シャルールは真剣な声でそう言った。  ガジューはシャルールに消してもらったと言っていた。だけど、僕の身体にはその奴隷印のほかにも゛見せてはならない゛傷がある。幼い頃から両親に言われ続けた傷がある。 「この兵の中にも奴隷だった者もいる。エクスプリジオンは奴隷廃止を訴えている国だからな。亡命も受け入れているから、元奴隷という民は多い。お前が引け目を感じることはない」  座ったままシャルールは僕を見つめて訴えるように言った。  その真剣な眼差しに、僕はこれ以上拒むことはできなかった。  シャルールが座れと言った場所に座りなおすと、「傷は肩だけです」  救急箱をシャルールに渡す。 「分かった」  シャルールは肩にだけ触れた。服を下げることもしなかった。傷薬を塗って、上からガーゼを当てると、「イグニスと合流したら治療してもらえ」と言って、立ち上がり救急箱を返しに行った。  森の中の木に囲まれた場所。  木の根元に座れば、腰ほどまでに伸びた草に覆われて身を隠すことができた。  馬は鞍を外して個々を離して休憩を取らせ、兵たちもそれぞれに軽い昼食を済ませた。 「これはあまり好きじゃない」  そう言いながら硬いパンをシャルールは齧っていた。パンといっても栄養の高いものを小麦と練り合わせて乾燥させたものだ。それを水と一緒に流し込む。  湖に向かう道中にもそれは食していたが、あまり美味しいとは言えなかった。 「馴れれば……なんとか」 「馴れない」  シャルールは顰め面をしたままそれを齧った。 「少し寝る。何かあったら起こせ」  太い木の根に背中を預けると、シャルールは目を閉じた。  寝るって……。  周りを見渡すが、草に覆われて他の兵を見ることもできない。  目を閉じてしまったシャルールの向かいに腰を降ろした。  シャルールは少し俯いていて、長めの赤い前髪が顔を覆って、生い茂った草の陰でその表情は見えなかった。  もたれた木には重厚な剣を立てかけている。その銀の鞘には剣先から柄に向かって赤い炎のような龍が巻きつく様に描かれていて、所々に赤い石が埋め込まれていた。そして、長い柄にはイグニスの短剣と同じエクスプリジオンの王家の紋章が入っていたが、柄の先端に向けて布で覆われていた。

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