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彼の地へ

 湖で見たシャルールの半裸を思い出す。こんなに重そうな剣を武装して馬に乗ったまま振るのだから、相当の鍛錬が伺えた。僕なんて軽装だけで音を上げそうだ。国王兵団となると、精鋭揃いなのだろう。  サワサワと風が草木を撫でる音が聞こえる。  鳥の囀りや馬の嘶きが時折聞こえる。  程好く満たされた空腹と暖かい日差しが眠気を誘う。目の前で寝ているシャルールを見ていると余計に眠気に誘われる。  だけど、何かあったら起こせと言われてしまったから、寝るわけにはいかなくて、じっとシャルールを見つめていた。  火の杜人と相対する龍神の杜人の守る湖から離れて、シャルールの持つ能力は制圧から逃れたせいか顔色も良くなった。先頭を行く姿は生き生きとしているように感じた。  これが本来のシャルールの姿なのだろう。  エクスプリジオンでは国王兵団の団長として、杜人本来の要人としてのシャルールを見てみたい。湖で遊んで、シャルールとの帰り、僕の頭を撫でて笑ったように、自然に笑うシャルールを見てみたい。  エクスプリジオンの国王が亡くなって、スオーロが怪しい動きを見せている今、そんな余裕は無く、緊迫した状況にあることは僕にも分かる。  国王が急死した理由もまだ分からない。一緒に逃げ出した仲間たちの行方も分からない。  先にエクスプリジオンに向かった兵やイグニスと合流するまで後2日はかかる。  馬を飛ばすシャルールからは焦りを感じる。国王を守るための兵の留守中に起こった急死なのだから焦る気持ちは理解できる。  今は少し落ち着いて寝ているけど、焦る気落ちを落ち着かせることも必要だ。僕なんかが何かできるとは思えないけど、こうやって側にいることや声をかけることはできる。  シャルールは能力者で兵長で要人で、奴隷の僕がこうして側にいることさえ叶わない相手だということも理解している。  イグアスに言われなくても、僕が一番理解している。  だけど、こうして側にいられる間は、支えることも叶う。少しでも、役に立つことができる。  そっと立ち上がってシャルールの目前に膝を着いた。  イグアスがそうしたように。 「お前は側近か?」  びっくりして顔を上げて振り返った。 「わぁ……」  大きな前足が僕に圧し掛かった。大声を上げそうになったのを、手で口を押さえつけられて僕は地面に仰向けに押し倒された。 「大声を出さないで、悪いようにはしない。……ちょっと……国王……団長の顔を見てみたかっただけだから」

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