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彼の地へ
「シャルール様、今のは?」
「スオーロの金白の杜人だ。見に来たとは不躾なやつだな。俺は見世物じゃない……まぁ、本当かどうかは定かではないがな」
「じゃあ、僕達がここを通っていることが伝わって……」
誰かがスオーロに密告したのだろうか。相手は『赤い団長を見に来た』と言ったのだ。『国王兵団を』とは言わなかった。ということは、シャルールがここにいることを知っていたことになる。
「兵を集める」
シャルールはそう言うと、片手を上げて赤い炎を数秒の間頭上に掲げた。
すぐに兵たちは草を掻き分けて集まった。
「俺たちの動向は既に見張られている。ここからさらに分散して進むことにする」
敵に知られないように水の宮殿から分かれて出発したのに、既に知られているとなれば、誰かが密告したか、森の中にすでに見張りが放たれていたかだろう。
突然現われた男は足音も立てずに大きな獣を連れ立っていた。そして、他の兵に知られることなくシャルールの前に現われた。
金白の杜人の能力は戦術と武芸に秀でていることくらいしか知らない。
他の杜人と違い、見た目では判断できないから、民衆の中に溶け込んでいる者も少なくない。だから情報収集能力も高い。他国に紛れ込むことも容易だろう。
「相手は既に接触を図ってきた。気は抜くな」
シャルールは兵に指示を出し、数人の班に分けた。
さっきまで一緒に馬に乗っていた兵士とまた一緒だろうとその兵士の後を追って行こうとしていたが、「ディディエは俺が連れて行く」と呼び止められ、「足手まといのお前を兵に預けるのは危険だ」と付け足した。
「そ、それは……」
言い返そうにも的を得ていて言い返すことができない。馬も剣も使えない僕は確かに足手まといでしかないのだから。
「少しでも先に進むには、他の馬よりスレアの方が馬力があるからな」
他の馬より一回り大きなスレア。2人も乗せて走るには力のある馬が必要だ。急ぐならなおさら。だから、シャルールの乗っているスレアが適馬なのは間違いない。
シャルールは脱いでいた甲冑を身に着けるとスレアに跨った。僕も軽装の甲冑を身に着けた。
「スレア……よろしくね」
スレアの顔を撫でると、その鼻を肩に押し付けられた。
「すっかり懐いたな」
シャルールに手を伸ばされて、その手を取ると上に引き上げられ、シャルールの前に跨らせられた。
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