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彼の地へ

「亡命できたらお前は俺の馬番になればいい」 「就職先の世話までしてくれるんですか?」 「スレアは何人も馬番を辞めさせているからな。お前に懐いているならそれにこしたことはない」  シャルールが、「先に出るぞ」と兵士に告げてスレアの手綱を緩めた。 「しっかり掴まっていろ」  鞍の持ち手を掴むように言われて握り締めた。スレアは徐々にスピードを上げて行く。先ほどまで鬱蒼とした森の中を駆けていたが、剣を振らなくても草木が当たらない程度の獣道へと進んで行った。  後ろからは蹄の音が多数聞こえてくる。 「ディディエ、頭を下げろ」  シャルールに言われて、すぐに頭を下げて前かがみになった。ガシャッと音がして、シャルールが剣を引き抜いたのが分かった。  いくつもの赤い炎が剣から弾き出された。 「振り落とされるなよ」  シャルールが手綱を片手に巻きつけるようにして握りなおすと、強く引いた。スレアが突然のことに嘶きをあげて前足を大きく振り上げた。 「うぁあっ」  驚きに大声を上げて振り落とされないように鞍にしがみ付いた。 『ガキンッ』  鉄がぶつかり合う音が聞こえて、側を兵の乗った馬が走り抜けた。  黒い甲冑はさっき合ったスオーロの杜人と似ていた。  走り抜けた兵に向かってシャルールが剣を振り下ろす。剣同士がぶつかった時よりも激しい音がして、黒い甲冑の兵士がよろめいた。  振り下ろした剣を斜に構えると後ろを振り返って振り下ろす。  スレアはシャルールの動きに合わせるように身を翻す。 「ディディエッ」  しがみ付いていても、馴れない動きに振り落とされそうになり、シャルールに引き戻された。 「ごめん」  謝るために顔を上げたすぐ横をシャルールの剣が振り下ろされて、『バキッ』っと音を立てた。 「ったあっ」  シャルールの剣に弾かれた矢は折れて、その破片が頬に弾けた。 「大丈夫か」

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