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彼の地へ

 剣を振りながらシャルールに聞かれて、「大丈夫」と慌てて返事をした。今度は顔を上げずに。  枝の折れる音と、馬の蹄の音と嘶き、剣のぶつかり合う音が混じる。  人の唸り声と物の落ちる音。  荒い息遣いと呻き声。  背中に感じるシャルールの機敏な動き。甲冑同士がぶつかり合って音を立てる。草木が折れる音が聞こえる。 「引けっ」  大声が響く。シャルールの声ではない。  襲撃してきた相手の声だ。  シャルールが剣を振り、熱が伝わって、すぐに離れて行った。 「離れるぞ」  シャルールの声の後、スレアが勢いよく走り出した。すぐ後ろを兵が付いて来る蹄の音がする。 「もう顔を上げていいぞ」  シャルールに言われて顔を上げるが、後ろを振り返ることは止められた。『引け』と声がした後、馬が走る音はしなかった。熱いと感じるほどの炎をシャルールが放ったのだ。  シャルールが剣を鞘に収めて、襲撃を受けたところから大分離れてから、馬を止めた。  さっとスレアからシャルールは降りた。他の兵たちも馬の横に降りる。 「怪我は無いか?」  兵の数は変わらないが、一番後ろを付いて来ていた兵士が左腕を失っていた。赤い鮮血が夥しく流れ、顔色は青く変わっていた。  すぐに治療はしたものの、これ以上一緒に行動は出来そうになかった。 「遠回りになるが、ここからならモリアンが近い。そこに行こう」 「いえ、私はここに留まり……」 「無駄死にするつもりか。モルガ。お前の馬に乗せてやれ」  シャルールは怪我をした兵をモルガと呼ばれた兵士の馬に同乗させた。  周りはすでに薄暗くなってきていた。 「急ぐぞ」  シャルールは再びスレアに跨った。  薄暗い湿地帯をゆっくりと周りを伺うように進む。重さのある馬は沼に足を取られて進むことは叶わない。鞍を下ろして馬を森に放した。賢い馬たちは戻ってくるということだった。  荷物を背中に背負って、ゆっくりと進んでいく。

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