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彼の地へ

「ここを抜けるとモリアンだ」  大岩に口を開けるように大きな穴が開いている。  シャルールは荷物の中から小さなランプを取り出すと火を着けた。辺りが薄っすらと明るくなった。  モルガは負傷した兵士を背負っている。出血が多いせいか意識が朦朧としているようで、息も荒い。 「シャルール様……」 「モリアンには薬学に長けた人間が多い。大丈夫だ」  歩き出したシャルールの後を追いかける兵たちは無言のままだ。その後ろを付いて行きながら、胸が詰まる思いがした。  謝って済む問題じゃない。僕がいなければシャルールはもっと自由に動けた。兵士を傷つけることもなかった。最後にシャルールが放った炎。あれは怒りを含んでいたに違いない。  背負われた兵士を見つめながら唇を噛み締めた。  大岩の穴を抜けると少しだけ、道が開けた。シャルールの持つランプ以外の明りが見えた。  小さな村。木造の質素な民家がいくつかあり、その中の大きな家の木戸をシャルールが小さく叩いた。 「ヴァレン。怪我人がいる。開けろ」  扉に向かってシャルールが話しかけるが返事がなく、戸も開かなかった。  シャルールが少し振り返って、後ずさると同時に、『ガタンッ』と音を立ててその扉をシャルールが蹴った。 「俺を待たせるなよ。ヴァレン」  シャルールの大声が響いた。蹴破った戸からシャルールは中に入って行き、中から話し声が聞こえた。 「大丈夫なんですか?」 「いつものことだよ」  隣にいた兵士は苦笑いで背負っていた荷物を降ろした。 「後で請求するからな」  声が聞こえて、「さっさと連れて来い」と眼鏡をかけた男が顔を出した。傷を負った兵士を背負ったまま家の中に入って行き、その後に続いて中に入った。 「こいつは俺が預かる。お前らは外に出ろ。シャルは手伝えよ」  布団に寝かされた兵士の腕を見ながら、「お前。そこにある鍋に湯を沸かせ」、「そこの棚の……」外に出ろとは言ったが、男が次々と指示を出すので、誰も出て行くことは無かった。 「ったく、こんな夜中に叩き起こされて、こんな大仕事させられるとは思わなかった。熱が出ているからな。目が覚めれば一安心だ」  眼鏡の男はそう言って、「高くつくからな」とシャルールに言った。 「請求書は城に持ってこい」

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