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彼の地へ

「支払いに来い」  立ち上がると、戸棚からいくつかの小瓶を出し、「これが傷薬で、こっちが打ち身……」と床に並べた。 「今度はどことおっぱじめるんだ?」 「まだ戦になるとは限らない」 「どうだか。これだけの傷を負わされるくらいだからな、柔な相手じゃないだろう?」  口端を上げて意地悪く笑う。シャルールは出された薬ビンを手に取ると、兵士に渡し、「適当に休め」と言った。 「ここの離れを適当に使え。いつもの通りだ」  男に外を指差されて立ち上がった兵士についていこうと僕も立ち上がった。 「ディディエ。ちょっと来い」  シャルールに呼び止められて、「ヴァレン。こいつも診てくれ」と腕を取られた。 「なんだ。新しい兵にしては役に立ちそうにないな」 「デイディエこいつはヴァレン。元国王兵団の医師だ。こいつはディディエ。スオーロからの客人だ」 「なんだ。そんなの預かってるのか」  ヴァレンは、「怪我は頬だけか?」と聞いた。 「医者には見せれるだろう。肩と背中に甲冑で擦れた傷がある」 「いえ、大したことはないので……」  服を握り締めた。 「大したことかどうかは俺が決める。さっさと服を脱げ」  ヴァレンが服を脱がそうと裾から引き上げようとする。 「や、止めてくださいっ」 ヴァレンの手から脱げだしたが、シャルールに掴まった。 「本当、女みたいなやつだな」 「そういう問題ではないです」  言い返すが、「じゃあ何が問題なんだ」とヴァレンが面白そうに言って、僕の服を引き上げた。 「……」  だけど、ヴァレンはすぐに服を引き下げた。 「傷薬はさっき兵士に渡したからな、お前のそれに利く薬を調合してやるから、俺と来い。シャルはこいつの世話な」  ヴァレンはそう言うと僕の腕を掴んで引きずるようにして奥の部屋へと連れて行った。  突然の行動に驚き抵抗もままならない。  奥の部屋は小さな引き出しが大量に並んだ棚と、薬草がいくつも吊り下げられ、床には調合などに使うのだろう石臼や乳鉢が置かれていた。

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