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彼の地へ

 ヴァレンは顔を上げて、「お前は龍神の杜人なのか?」と聞いた。 「……僕はずっとこの姿のままで、両親はすでに他界しましたが……スオーロの奴隷です」  ヴァレンが言うように色も白くは無いし、術をかけることも、かけられた覚えもない。 「杜人の能力は遺伝だ。突然変異で生まれてくることは無い……その背中を見せてくれ」 「杜人を見つけたいんですか?」 「龍神の杜人は水の杜人だ。水がこのまま腐り続ければこの国同士の争いも一層激しくなる。国同士が争えば国民はさらに苦しめられ、虐げられる。龍神の杜人の生き残りがいるなら、この争いを止められる」 「水が元に戻れば、争いは無くなる?」  争いから生まれた奴隷。その奴隷たちも解放されるだろうか。今はまだ水はある。だけど、それが腐り、無くなっていけば残り少ない水を奪い合うことになる。  龍神の杜人が生きていれば水を元に戻せる。 「僕はただの奴隷です。両親はブルーメンブラッドの出身だけど……龍神の杜人については一度も聞いたことはありません」  僕は生成りの服の上着を脱いで、ヴァレンに背中を向けた。  背中の極一部にある傷。それが産まれ付きかどうかは分からないし、じっくりと見たことは無い。波打ったような模様が赤黒く付いているだけだ。そのすぐ横には焼き付けられた奴隷印がある。  一見すれば奴隷印の押し違いのように見えなくも無い。 「どうですか?」  じっと見ているヴァレンに尋ねると、「確かに紋様のように見えるが……奴隷印はいつ押された?」と聞かれて、「4年ほど前です」と答えた。父親が亡くなって奴隷として働かされる時に印を押された。 「その時に失敗したわけじゃないだろう?」  押し違いを指摘されたが、そんな覚えはなかった。それに熱く焼けた焼印を押されるのに、失敗されたら覚えているはずだ。 「押し違えはありませんでした」 「お前、歳は?」 「17歳です」 「年齢も一致するが……」  ヴァレンは考え込んで、「少し違って見える」と返事をした。立ち上がると引き出しの並んだ棚から小さな小瓶を持ってきた。 「傷薬だ。確信は持てないが……親からは何も聞いてないのか?」 「母は幼い頃に亡くなって、父も夜遅くにしか帰ってこなかったので、何も聞いていません」  ヴァレンは甲冑で擦れてできた傷に薬を塗ると服を着るように促した。

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