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彼の地へ

「数日前にここに森の杜人が来て、龍神の杜人の末裔を探していた。実在するかどうかは分からないと言っていたが、その杜人に見せれば分かるかもしれない」 「でも、僕達は森の杜人がいた宮殿から来たんです。そんな話は聞いてないです」 「紋様のことを知らなければ話すことでもないだろう。俺だって、数日前に聞かされなければ祖父との事も思い出さなかった」  数日前ということはその人たちは宮殿にはいなかったのだろう。僕たちとはすれ違いになったのだ。  そういえば湖に向かう途中で出会ったフェルメは人探しをするために旅立ったばかりだと言っていた。 「もしかして……フェルメ様ですか?」 「知っているのか?」  ヴァレンは驚いたように聞き返した。 「湖に向かう途中で会いました。人探しのために旅立ったばかりだって聞きました」 「それで、フェルメは何か言ってなかったか?」  フェルメのことを思い出しても、思い浮かばない。出身と歳を聞かれただけだった。 「特に何も……」 「じゃあ、間違いか……悪かったな。無理矢理脱がせて。でも、可能性は無いわけじゃない……」  ヴァレンは謝ると、「薬は持って行け」と薬ビンをくれた。 「ありがとうございます」 「お前も他の兵と一緒に離れを使え。明日は早くに出発するんだろう。ゆっくり休めよ」  そう言うと部屋の入り口の鍵を開けてくれた。 「随分と話し込んでたじゃないか」  シャルールは傷ついた兵士の横に座ったまま振り返った。 「シャル、こいつくれよ」  後ろから付いてきたヴァレンは僕の肩に腕を回して引き寄せた。 「ディディエはこれからエクスプリジオンに亡命するんだ。勝手なことはできん」 「無理に亡命する必要もないだろう。ここにいればいい。こんな辺鄙なところには人買いも来ないし、戦に巻き込まれることもない。なぁ」  ヴァレンに同意を求められて、「先に仲間がエクスプリジオンに向かっているので、行かないと」と答えると、「そんなのシャルに伝言でも頼めばいい」と口端を上げて笑った。 「そんなにディディエが気に入ったのならお前が付いて来い。兵団医師の席は空いている」  ヴァレンは僕の肩から手を離すとシャルールの隣に座った。 「そんなに人手不足なのか?」  ヴァレンは楽しそうに話しかけているが、シャルールは真剣な声で、「これから戦が始まれば医者は必要になる」と答えた。 「まぁ、そうだろうな」

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