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彼の地へ
ヴァレンは、「俺もちょっと用事ができたから、付いていってやるよ」と返事をした。
「用事ってなんだ?」
「まぁ、気になることができたから、確認をしてみる」
シャルールは気が付かなかったが、ヴァレンは僕を見たのだ。
可能性は無いわけじゃないと念押しするように。
「イグニスもいないし、お前が来れば助かるが……そいつはやらないからな」
「分かったよ」
「ちょっと来い。ヴァレンはそいつを頼む」
シャルールは立ち上がると僕の手を取って、外へと連れ出した。
数軒の家の間を通り森のほうへと進んでいく。森に入ると月明かりは遮られて、暗くなったがシャルールは力で炎を灯して奥へと進んでいく。
「シャルール? どこへ行くんですか?」
呼びかけるとシャルールは不意に足を止めた。
「ヴァレンと何を話していた?」
振り返ると不機嫌そうな表情。
「……とくに何も……肩の手当てをしてもらっただけです」
「服を脱いだのか?」
腰紐の結び目をシャルールが掴んだ。脱ぐ前とは結び方が違っていた。シャルールはそれに気が付いたのだ。
「傷に薬を塗ってもらったので……」
背中の傷を見せたことは話したくない。話せばシャルールにも見せることになるかもしれないから。
「俺の前では頑なに脱がないくせに、何でさっき会ったばかりのあいつの前では脱ぐんだ」
「だから、傷を治してもらっただけで……」
自分から進んで脱いだわけじゃない。
『龍神の杜人』を探しているから、その疑いがあるならと、それが晴らせるならと脱いだのだ。
人に見せないように言われて育ったものを曝したくない。それに、背中には嫌悪の象徴でもある奴隷印がある。
エクスプリジオンに着いたら消してくれるとシャルールは言ってくれた。ガジューの奴隷印だってシャルールは消したらしい。
エクスプリジオンに着いて無事に亡命できたらシャルールに自分から頼もうとも思っている。
シャルールになら……自分から見せてもいいと思っている。
「ヴァレンと何を話したんだ」
シャルールは不機嫌なままだ。
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