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彼の地へ
「大した話はしてないです。おじいさんもお医者さんだったと聞いただけです」
嘘は付いていない。
「本当か?」
念を押すように言われて、小さく頷いた。
「お前は……俺の側を離れるな」
シャルールはそう言うと拳を握って炎を消すと元来た道を戻りだした。
「シャルール様?」
それだけの確認のためにこんなところまで連れて来られたのかと動揺して前を戻るシャルールを呼び止めてしまった。
「何だ?」
「……何でヴァレンさんと話したことを気にするのかと……」
「……ヴァレンは……なんでもない」
シャルールは振り返ったがすぐに歩き出した。
「言いかけて止められると気になります」
言い募るとシャルールは足を止めて振り返った。
「……あいつは手早いんだ。長く話し込んでいるようだったし、服を脱いだようだから何か……されなかったと確認しただけだ」
早口でそう言うと、「さっさと帰るぞ。何もなかったならそれでいい」と再び進み出した。
「シャルール様……僕は男ですよ」
女みたいなやつだとシャルールは言うけど、僕はれっきとした男だ。いくらヴァレンが手が早いといっても僕を相手にするはずが無い。
「そんなことは承知している。ヴァレンはそういったことは気にしない」
来た時と同じように早足のシャルールを追いかける。
シャルールは僕に何かあったのかと心配してくれたようだ。だから僕を連れ出したのだろう。
「僕では……そんなことにはなりませんよ」
奴隷で綺麗でも無く、可愛らしくもないのだから。蔑まれて奴隷として生活を続けていれば嫌が追うにも見た目に恵まれてはいない自覚はある。その顔を隠すように伸ばした髪も痛んでぼさぼさで姿勢も悪い。勉強もしたことは無い。そんな僕に何の魅力もないことぐらい分かっている。
「心配なんて、必要ありません」
ヴァレンの家の戸を開けるのに立ち止まったシャルールが振り返る。
「そうか? 物好きもいるかもしれないぞ」
僕の長い前髪をかき上げると、「エクスプリジオンに着いたら……事が落ち着いたら整えてやるよ」と笑った。
ここへ来るまでずっと緊張していたのだろうシャルールはずっと眉間に皺を寄せていた。
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