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彼の地へ

 ヴァレンはそう言うと、「肩は痛まない?」と聞いた。 「布を巻いてもらったので、大丈夫です」  甲冑の肩に布を巻いてもらって、擦れるのを軽減してもらった。幾分はましになって、ヴァレンにもらった傷薬もよく利いた。 「それはよかった。少し診てやるからこっちに来い」  ヴァレンに促されて、兵たちと離れた。腰ほどまで伸びた草の間を分け入って、大木の木の根元の窪みに降りると兵士からは見えなかった。  ヴァレンにはすでに背中を見られているので、見せろと言われても抵抗無く服を降ろした。 「大丈夫そうだな。後はイグニスに治癒してもらえばいいだろう」  傷薬を塗りなおして、薄い布を貼ってくれた。 「ありがとうございます。あの……ヴァレンさんはイグニス様とあまり仲がよくないのですか?」  温厚なイグニスがヴァレンに対しては明らかに機嫌が悪かった。ヴァレンは僕のことを確かめるために着いて来た。僕が原因で仲たがいをされるのは心が痛む。 「お前が気にすることじゃない。昔色々あったんだ」  ヴァレンは苦笑いで僕から顔を背けた。 「さっさともど……」 「そこで何をしている」  真上から聞こえたシャルールの声に驚いて顔を上げ、慌てて服を調えた。 「別に。傷を診ていただけだ」 「あなたはいまいち信用が置けません」  シャルールの後ろにはイグニスがいる。 「イグニス、丁度よかった。こいつの肩を治癒してやってくれ」  ヴァレンは言いながら立ち上がった。 「そんなに大事なら手元から離すなよ」  木の根の上から飛び降りてきたシャルールの肩を叩くとヴァレンは兵のいる方へと向かって行った。  イグニスが窪みへと飛び降りてきて、「何もされてませんか?」と心配そうに問いかける。シャルールも続いて降りてきた。 「甲冑で擦れた傷を診てもらっただけです」 「それならこそこそ抜け出す必要もないだろう?」  シャルールは言いながら結び直した服の腰紐をちらりと一瞥した。 「コソコソなんてしていません」  シャルールの言い方にむっとして強く言い返した。 「女じゃあるまいし、治療なら側で診て貰えばいいだろう。それを隠れるようにこんなところまで」

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