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彼の地へ
「それは、僕に気遣ってくれたヴァレンさんがここに連れてきてくれたからで、隠れようなんてことはありません」
奴隷印や背中の傷を気遣ってヴァレンさんはここに連れ出してくれたのだ。シャルールが言うように隠れてコソコソするつもりなんて無い。
「お前には無くてもヴァレンに気を許すな。物好きがいると忠告したばかりだろう」
「そんな物好きはいません」
「ヴァレンは別だと言ってるだろう」
シャルールは眉間に皺を寄せて言い返す。
「シャルール様、ヴァレンの事はもう結構です。ディディエも隊から離れる時は一声かけてください。探したんですよ」
イグニスに言われて、「すいませんでした」と謝った。
こんな雑林の中でいなくなれば心配するだろう。まして、どこに敵兵がいるか分からない状況だ。
「ほら、仲間の皆さんの様子をお話しますから、戻りましょう」
イグニスに促されて兵士達のところへ戻ろうとすると、シャルールが、「俺から話すから、イグニスは兵達を頼む」と僕の腕を掴んだ。
今のシャルールより、イグニスから話を聞きたいと思ったが、イグニスが急いで行ってしまったので、引き止めることもできなかった。
「そこに座れ」
元いた場所に座るように言われて、腰を降ろすとすぐ横にシャルールが座った。
「お前の仲間だが……俺の兵達と一緒にスオーロへ連れて行かれた」
「何でっ……スオーロなんかに連れ戻されたら、仲間は、無事でなんていられないよっ」
驚いて目を見開きシャルールを見つめた。
「そんなに慌てるな。今のところ身の安全は確保しあると書文が届いている」
「それは、仲間のことですか?」
兵士たちだけのことじゃないのだろうか。僕達は奴隷から解放されるためにスオーロから逃げ出したのだ。掴まればどんな目に合わされるか分からない。
その場で殺されることだってある。
「お前の仲間も一緒だ」
「本当に?」
言い募るとシャルールは、「その書文を見るか? イグニスと一緒に戻った兵に今から返事を託す。その文書にも身の安全の確約を綴ってある」と真剣に返事をした。
「……見せられても、僕は……字が読めない」
奴隷で勉強もしたことがない。所々しか字は読めない。
「それなら俺を信じろ」
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