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彼の地へ

 シャルールの暖かい手が僕の頭を撫でた。  その温もりが落ち着きを与えてくれる。 「きっと間に合わせてみせる」 「間に合うって何?」  間に合わなかったらどうなるのだろう。何に間に合うってことだろうか。 「俺がエクスプリジオンに戻ることができなければ、文書は無効となる。期限は5日。ここからアウルムまで2日。そこからは1日あればエクスプリジオンへは戻れる。だが、スオーロもすんなりとは通してくれないだろうな」 「どうして、シャルールがエクスプリジオンに戻らないと無効になるんですか?」 「国王の命として書いているからな。国王の座に無ければその名は意味を成さない」  国王は死んだのではなかったのだろうか。 「国王亡き今、新たな国王の名が無ければ、俺は一介の兵士に過ぎない。俺の名に力は無いんだ」  文書にシャルールの名が書かれていても、新国王が即位して、シャルールを指名しなければシャルールは地位を失い、スオーロへ送る文書もその効力を失う。 「間に合わなければ、スオーロの奴隷たちは処刑される。兵たちも身分を剥奪し、奴隷にすると……」 「そんなっ……それなら早くエクスプリジオンへ行きましょう」  アウルムへ行かなければエクスプリジオンまで早くたどり着くことができる。 「まずはアウルムに向かわなければならない。エクスプリジオンの兵だけではスオーロに打ち勝つことはできない」  スオーロはブルーメンブラッドを滅ぼし、領地へと拡大した大国だ。兵士の数も桁違いだろう。 「アウルムへの協力を得るためには俺が行かなければならない」  シャルールでなければ成すことができないことが多すぎる。  抱えている責務が大きすぎる。 「それなら、僕はここに留まります」  何の力にもなれない僕が足でまといになることは目に見えている。 「馬鹿なことを言うな」  シャルールは鼻で笑うように言った。 「馬鹿なことなんて言ってない。僕がここに残ったほうが、足手まといにならない。馬だって、もっと早く走らせることができる」  馬に乗れない僕を一緒に乗せると馬は遅くなってしまう。この間のように敵兵に襲われても、自分の身さえ守ることができない。  シャルールに庇われなければ、命を落としていたことだろう。 「こんな所に置いて行けるわけがないだろう」

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