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彼の地へ
「だったら、ここから一番近い村にでも置いていってもらえれば……」
「お前は前を向いて生きることだけを考えていろっ」
シャルールは僕の言葉を遮るように言葉を荒げた。
「今から、大きな戦が起こることは明白だ。スオーロも本気だ。この戦を制したものがこの4国の覇者となる。俺はこの戦に賭ける」
シャルールは強く拳を握り締めた。
「この4国を納めることができたら、奴隷だって解放される。国同士の小競り合いも無くなる。今までのような無駄な犠牲を増やすことも無くなる。例え、お前の命一つでも、俺は犠牲を出したくない」
シャルールの赤い瞳が僕を捉えた。
「お前は自己犠牲心が強すぎる。それは美徳に思えるかもしれないが、多くを失ってきた俺から見れば、自己満足だっ。もっと生きることに貪欲になれ。犠牲を払ってでも、生きたいと欲を持て」
「欲?」
「そうだ。お前の両親や仲間、俺やイグニス、他にもお前を守ろうとしている人間はいる。そのことにお前は応える義務がある。ちっぽけな人間なんていない。軽んじることなんてしてはならない。もっと、強くなれ」
僕は奴隷として生きた。軽んじられ、蔑まれ、怒鳴られ、殴られ……自分を蔑むことだってしてきた。だけど、シャルールは自己満足だと、貪欲になれと言う。
こんなことを言われるのは初めてで戸惑ってしまう。
俯き、顔を隠すようにして、身を隠すようにして生きてきたのに、前を向けという。
「俺を信じろ。この国を救うのは俺だ」
さっきよりも熱く、強くシャルールは言い切った。赤い瞳がより熱を持っていた。
シャルールは沢山のものを失ったと言った。これ以上失いたくないとも。その中に僕もいることが嬉しかった。
「シャルール様を、信じる」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「そうだ。俺を信じろ」
シャルールは肯定するように大きく頷くと僕の頭を撫でた。その手の温もりが僕に安心感を与える。
「イグニスや兵、国は俺を信じている。俺はそれに応えなければならない。それが俺を前へと押し進める。俺はもっと、もっと、強くなる。だから、お前も俺を信じて着いて来い」
シャルールはそう言いながら立ち上がると、「戻るぞ」と言って、僕の手を取って立たせた。
「お前は俺の側を離れるな」
立たせる為に掴んだ手はそのままにシャルールは歩き出した。
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