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彼の地へ
柄には細かい装飾がされていて、小さな青い石がいくつも埋め込まれていた。
「……もしもの為だ。この戦が終われば……返してくれ」
ヴァレンの大事な物なのだろう、「ヴァレンさんが持っていたほうが……」受け取るのに躊躇すると、「もしもの為だ」と僕が身に付けた甲冑の腰に結びつけた。
「無事に再会できることを祈っている」
そういうことか。再会の約束だ。
ヴァレンはここに残る。ここは戦禍となるのだ。
「ヴァレンさん。エクスプリジオンで待っています」
「ああ」
頷くと僕の頭をなでた。
ヴァレンは眼鏡を外して甲冑を身に付けると再び眼鏡を戻した。
「俺も甲冑なんて着馴れないから軽いのにしよう。剣は必要になるけど、ディディエはシャルに守ってもらえば大丈夫」
ヴァレンはおどけたように言った。この甲冑はアウルムの物だろう。エクスプリジオンの物とは形状が少し違っていて、所々に石が埋め込まれて細かい装飾が施されていた。
「アウルム国は資源豊かな国だ。とくにこの『石』はここでしか手に入らない。土の杜人はこの石を探し出す能力に長けていて、その石を使って杜人たちの能力を高める石を造り出すこともできる。シャルールの持っている剣についている赤い石は能力をコントロールするための物だ」
シャルールの持っていた剣にはいくつもの赤い石が埋め込まれていた。
「まぁ、高めるだけのでも無いけどな。アウルムの王は随分と歳をとっていて、実質は若い王子が権力を振るっていて、杜人としての能力は随一らしい。シャルールが調印に向かっているが、なかなかに曲者らしいから注意は必要だろうな」
ヴァレンは会ったことでもあるのだろうか。
「杜人が王様なんだ」
「ああ。オーロという王子だ。いつか会うこともあるだろうな」
「僕はないよ」
奴隷の僕がそんな偉い人に会うことなんてありえない。こうしてシャルールやイグニスと共に行動していることも奇跡なのだから。
「準備が整ったら広場に戻ろう」
他の杜人が部屋を出ようとした時だった。
『ドンドンドンドン……』
激しく木戸が叩かれて、「ヴァレン様っ、こちらですか?」と呼びかけられた。
「何事だ?」
ヴァレンがドアを開けると2人の兵士が息を切らせて飛び込んできた。
「大変です。ブルーメンブラッドの……湖が、水の宮殿が……スオーロに占拠されました。
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