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彼の地へ

 置いて行くわけじゃない。守るために行かなければならない。  階段を駆け上がってくる数名の足音がして、赤いマントを羽織ったシャルールが表れた。 「時間が無い。急げ」  シャルールは周りを急がせると、「ディディエッ、来い」と僕を呼んだ。  スレアを馬場から出すとすぐに跨り、僕の腕を掴んで引き上げた。濃紺のマントがフワリと広がって、シャルールがそれごと抱き締めるようにして僕を受け止めると手綱を引いた。  スレアが大きな嘶きを上げて、前足を上げると同時に走り出した。 「しっかり掴まっていろ」  シャルールが叫ぶ。ガチガチと互いの甲冑が激しくぶつかる。スレアは馬場のある広場を抜けると、先に進むアウルムの兵士を追いかけた。 「あそこから出てください」  そう言って、城壁に作られた鉄柵を指差した。鉄柵の前には兵士がいる。先導していた兵士が脇へ逸れると、シャルールはスレアのスピードを上げて鉄柵から外へと飛び出した。  木々は少なく、切り立った崖を滑るようにして降下する。後ろからはシャージュ、ゲイル、ジャメルが追う馬の蹄が聞こえる。風を切るように進む。僕は鞍の前を握り締めていたが、「ディデイエ、上体を下げろ」とシャルールに言われて、頭を前に下げると、風の抵抗が少しだけ軽減された。  スレアの鬣が風で後ろへと流される。  スピードを肌で感じた。  兜の隙間から風が入り、マントが風にはためく。  斜面を下りきると、森の中を走る。  背後から大きな怒号が響き、地響きと共に爆発音が響いた。続くように何度も爆発音が聞こえる。  耳を塞ぎたくても、鞍を握り締めていることしかできない。 「前だけを向いていろ」  シャルールが風の音に負けないように、僕に大声で言った。  それは、後ろを付いてくるシャージュ達にも聞こえただろう。  置いてきた者たちを心配して振り返りたい気持ちは皆同じだ。だけど、振り返るわけにはいかない。  一時でも早く、エクスプリジオンに着かなくてはならない。挙兵して待っているであろう、国王兵団を連れて戻らなければならない。  スオーロが落とされれば隣国のエクスプリジオンはすぐに攻められる。  元ブルーメンブラッドのある休戦地帯も無いも同じことだ。  徐々に暗くなりはじめ、森は暗闇に包まれ始めたが、シャルールの放つ炎のおかげで薄っすらと道は照らされて、少しずつではあるが前に進めた。  しかし、それは敵に居場所を知らせてしまう首を絞める行為だ。

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