69 / 167
彼の地へ
歩調を緩めた馬に乗ったままシャージュが、「このままでは敵兵に襲われます」と苦言を呈して、「分かった。ここからは歩こう」と馬を止めた。
鬱蒼と生い茂る木々の葉で月光も遮られて、周りは見えない。
馬から降りるとジメジメとしてぬかるんだ土が足を捕らえる。
乗馬している時は軽減されていた鎧の重さが全身にかかる。昼間との温度差は大きく、鉄の鎧は冷やされて体温を奪った。
「ディディエ。手を貸せ」
シャルールに差し出された手を握ると、そこから熱が伝わった。シャージュが後ろから、「マントをしっかり閉めて」と言って背中を押した。
火の杜人は体温が高く、その手から炎を出すことができるためか、触られたところから熱が伝わって鎧も温められた。
「ありがとう」
お礼を言うと、後ろを歩くシャージュが返礼した。シャルールはまだ手を繋いだままだ。
「シャルール様、もう離してください」
充分温まったから手を離して欲しいと伝えるが、シャルールは、「転んだり、いなくなったら困る」と言って繋いだままだった。
暗闇の中にシャルールが作り出した炎の蝶がヒラヒラと舞う。いくつも作り出されたそれは、敵を欺く為に遠くにも飛ばしてあった。
道を示すための蝶を見つめて追いかける。5人と4頭の馬は互いの肩がぶつかりそうなほどに近づいて進む。
「ディディエはスレアに乗れ。俺が引く」
重たい鎧は容赦なく体力を奪っていく、何度もぬかるみ足を取られて、よろけてシャルールに助けられていた。
スレアに乗せられて、シャルールが手綱を引いて進む。ゆさゆさと揺れる振動が疲れて体力の落ちた身体に心地よく響いて眠りを誘った。
「ディディエ落ちるなよ」
「はい」
返事はしてもすぐに船を漕いでしまう。
すぅっと意識が沈みかけた時だった。
『カシャァッンッ』
暗闇の中に響いた甲冑と槍のぶつかる音。頭上の木々から数人の男たちが飛び降りてきた。
驚いた馬が激しい嘶きを上げて前足を振り上げた。
スレアも同様で、跨っていた僕は急なことに振り落とされて、後ろへと飛ばされた。
地面に叩き付けられたが、ぬかるみに滑って怪我は無かった。
「ここからは進ませない」
ともだちにシェアしよう!