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彼の地へ

 シャルールはスレアをもう1度回転させた。 「……分かりました。でも、少し待ってください……前が、よく見えないのです」 「どうした? 怪我でもしたのか?」  背中からシャルールに覗きこまれる。 「怪我は、してませんが……」  鞍から手を離すと兜をゆっくりと外した。 「血のりか」  シャルールはスレアに括りつけてある麻袋から布を出して、指先に炎を灯し、少しだけ明るくしてくれた。  白い布は瞬く間に赤く染まった。  こんなに……。  鎧の上から剣で切られたとはいえ、これだけの血が吹き出ていたら……。  怖い。  急に指先から震え出したが、それよりもこの返り血を落としたくて、何度も何度も顔を擦った。 「ディディエ、そんなに擦ったら皮膚を傷めるぞ」 「だって、まだ取れない……」 「見せてみろ」  白い布は綺麗にならない。何度拭いても赤黒い血が付いている。 「殆ど取れてる。大丈夫だ」 「でも、まだ赤い……」  ふっと風で揺れたシャルールの赤いマントにドキッとして身体が震えた。 「ディディエ、兜を貸せ」  手に持っていた兜を渡すと、シャルールはそれをスレアに結びつけ、自分の兜も脱いだ。 「大丈夫だ。もう少しすればエクスプリジオンに着く。そしたらすぐに湯浴みをして、ぐっすり寝て、休めばいい。こんな戦はすぐに終わらせる」  シャルールはスレアをゆっくりと歩かせた。 「俺が、初めて戦いに出たのは叔父の兵に入隊してすぐの11歳の時だった。スオーロとの小競り合いを収めに行って、そこで隊は惨敗した。俺も大怪我をしてかろうじて命を取り留めた」  後ろから抱き締めるように支えるシャルールの声はすぐ耳元で聞こえる。 「仲間も敵も……誰の血か分らないほどの返り血と自分の血が混じって、恐怖に震えた。幼かった俺はその恐怖で能力の制御を失った。助けに来た仲間を幾人も焼き殺した……敵も殺した」  手綱から片手を外すと掌から小さな炎を出して、蝶の形にするとふっと飛ばした。  それは森の中にヒラヒラと舞ってすぐに消えてしまった。 �

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