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彼の地へ
「俺はすでに何人もの人を殺している。恐怖に震える心もすでに麻痺するほどにな……」
シャルールは徐々にスレアのスピードを上げていくが、風の音よりもシャルールの声は近く、よく聞こえていた。
「人が殺される場所に俺達は立ちすぎている。国を守るのが兵士の役割だ。恐怖に負ければ戦いに負けて、自分が殺される。強く、強くなければ、負けるんだ」
だから、僕にも負けるなという事だろうか。
人が殺される恐怖に勝てと……。
シャルールが片手を僕の腰にギュッと巻きつけると強く抱き締めた。
「お前は、弱いままでいろ。俺が忘れた恐怖を……お前は持っていてくれ」
「シャルール様?」
「恐怖があればこそ、強くあろうとするものだ。お前が恐怖すれば、俺も気が付く。大丈夫だ。お前のことは俺が守る。殺させたりしない」
シャルールは腕を解くと手綱を強く握りなおし、スピードを上げた。
休むこと無くスレアを走らせ、森を抜け、谷を越えた先、夜が開け始めたころにエクスプリジオンの街が見えた。中央にそびえる城中心に街が広がっている。
街に入る前に鎧とマントを脱ぎ、スレアを待たせ、歩いて中へと入った。シャルールは赤い髪が目立たないように、汚れた麻のローブを纏った。
城の後方から街に入った。
初めて来たエクスプリジオン。夜明け間近で街は静まっていて、人の姿も殆ど見えない。
「ディディエ離れるなよ」
「はい」
頷いてシャルールを追いかけながらキョロキョロと見渡した。
赤い土でできたレンガの家が多く、道も舗装されている。
まるで、戦が始まったのを知らないようだ。
急ぎ足で城へ向かうシャルールとはぐれないように必死で追いかけた。
「こっちだ」
城に程近い宿屋の入口。シャルールはその宿の戸を数回叩いてから中に入った。
「お待ちしておりました。ご無事で何よりです」
すぐに戸は閉められて、白いローブを纏った男が床に膝を付いて頭を下げた。見れば宿の中の数人の男たちも同じように頭を下げている。
「急いで城に向かう。支度は調っているか?」
「はい」
「国王の死はすでに公示しました」
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