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彼の地へ
「新国王の推挙もすでに滞り無く済み、大臣たちが大広間でお待ちです」
シャルールが麻のローブを脱ぐと、目の前の男は立ち上がって受け取った。
「向かいましょう」
奥へ行くようにシャルールを促した男が振り返って、「イグニス様より言いつかっております。こちらへ」とシャルールと一緒に奥へと促された。
宿の奥へ奥へと連れて行かれて、地下へと続く階段を降りて行かされた。シャルールが出した炎が石造りの階段や壁を照らしている。
「どこに続いているの?」
どこに連れて行かれるのかが分らなくて、目の前のシャルールに聞くと、「城の地下に繋がっている」と教えてくれた。
前後左右にはシャルールを迎に来た男たちが守るようにして一緒に歩いている。
白いローブの合わせから時折見えるのはイグニスの持っていた短剣と同じエクスプリジオンの刻印の押された剣だ。
この人たちも国王兵団なのだろうか?
薄暗い地下道を通って行き着いた階段を今度は上った。
しばらく進むと、男達は立ち止まり壁を探って、腰下ほどの高さの石を外した。
「頭にお気をつけください」
男が先に入り、その後にシャルールが続いた。
隠し通路だったようで、通った先は広々とした廊下だった。
「こちらにお急ぎ下さい」
誰もいない廊下。城の中に設けられた庭園と繋がった廊下は天井も高く、見上げればステンドグラスや絵画で飾られていた。
「凄い……」
スオーロで働いていた屋敷でもこんなに綺麗な装飾は見たことが無かった。
これだけ裕福な国なのだろう。
シャルールについて行くと、「ディディエ様はこちらでお待ち……」「ディディエも俺と来い」と別室に通されるのをシャルールが制して、手を取られた。
「ですが、シャルール様」
「俺が連れて行くと言っている。大丈夫だ」
僕を引きずるようにして歩くシャルールに周りの兵士が抗議するが、シャルールは気にしない様子だ。
城内を進んで、大きな扉の前でシャルールが止まった。横にいた兵士が、「シャルール様が到着しました」と言ってから扉を開けた。
「お待ちしておりました」
白いエプロンを身につけた侍女数人が深々と頭を下げた。
「すぐに支度を。ディディエ、こっちだ」
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