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彼の地へ
シャルールは僕の手を掴んだまま部屋を横切ると奥の扉を開けた。
そこは明らかにバスルームだ。
「ち、ちょっと、シャルール様、僕は……」
「さっさとしろ。時間が無いんだ」
「でしたら、僕は後でいいです」
シャルールが掴んでいる手を振り解くと、入って閉めたばかりのドアを開けて部屋に飛び出した。
「本当に女みたいな奴だな。分った」
そう言うとシャルールはドアを閉めた。
ぱっと回りを見渡すと侍女と兵士が僕を取り囲むようにして見ていた。
「シャルール様はお支度がありますから、こちらへどうぞ」
年配の侍女が僕に声をかけた。
「いえ、あの……」
促されたのは窓際に置かれたソファーだ。そんなところに座るように言われたのも初めてで戸惑ってしまう。
「こんなに汚れているし……結構です」
甲冑や兜は身につけてはいないが、森の中をずっと移動し続けていて、あちこち擦り傷もできているし、大分汚れている。
床は石でできているから大丈夫だけど、あんな綺麗なソファーに座ったら汚してしまう。
「大丈夫ですよ。お疲れになったでしょう。お茶でも頂いてお待ち下さい」
「いえ。僕は結構ですから」
こんな気を使われることに慣れなくて、後ずさる。
「では、こちらにもシャワーが使える場所がありますからどうぞ」
白いローブの兵士はそう言って、僕を促したが、「シャルール様が、出てくるのを待っています」と答えて、扉の前に立った。この人たちはシャルールの側近で信頼の置ける人間なのは分っている。だけど、僕の知っている人はシャルールしかいない。
僕が奴隷だってことはこの人たちも知っているはずだ。イグニスから報告を受けていると言っていたから。
侍女たちはシャルールの着替えなどを用意しているのだろう、忙しなく部屋を動き回って、白いローブの兵士たちもローブを脱いでシャルールが身に付けていた物と同じ赤いマントに着替えた。
「ディディエ様はこちらに着替えて下さい」
侍女に手渡されたのは、麻のドレープのシャツと白いズボン、それに緑色のマントだった。
「これは?」
奴隷が身につける様な衣装じゃないことぐらい一目瞭然だ。
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