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彼の地へ

「イグニス様より、亡命が果たされたなら、シャルール様が側付けにするだろうと聞いております。手続きは進んでいますから、身に付けてください」  兵士はそう言って、「ようこそ、エクスプリジオンへ」と言った。  亡命が認められれば、僕は奴隷ではなくなる。  今はスオーロで掴まっている仲間も一緒に亡命するはずだったのに。 「僕だけ、辿り付けたのか……」  唇を噛み締めて渡された衣装を抱き締める。 「すぐにシャルール様が手続きを……」 『ガチャン』  後ろの扉が開く音がして振り返ると、赤い髪は濡れたままで身体にも水滴が残ったままのシャルールがシャワーから出て来たところだった。  腰にタオルを巻いただけのシャルールは、「ディディエ、急いで洗って来い」と言って、僕の横を通り抜けた。 「分った」  シャルールが出てきたばかりのシャワー室に飛び込むと、ドアをしっかり閉めた。  服と一緒にヴァレンから預かった小刀を脱衣所のカゴの中に入れた。  砂漠や森の中を通ってきたからだろう、小さな擦り傷が無数にできていて、シャワーを浴びると地味に染みた。  返り血で汚れた場所は念入りに洗った。  渡された服を着込み、部屋に戻ると、長髪の男がこちらに背を向けて立っていた。  先ほど部屋にいた侍女達が服を念入りに直していた。 「ディディエ出たのか?」 「え? シャルール様?」  男の声に驚いて前に回りこむと、長髪の男はシャルールだった。金の縁取りがされた赤いスタンドカラーのジャケット。長い裾には丁寧な刺繍が施され、ズボンも同じく赤い。赤い髪は地毛と同じ赤い毛が背中まで一房結い込まれていた。  後ろから見ると別人に見えたのはこの赤いつけ髪のせいだ。  背の高いシャルールが少しかがんで、赤いマントを肩に着せ掛けられた。  その赤いマントもこれまでとは格が違った。長い、長いマントは床にまで伸びていて、細かい刺繍と共に金や宝石が織り込まれていた。 「何だ。見違えたか?」  シャルールは侍女に服を調えられながら、僕に言った。 「……別人かと、思いました」  素直に答えると、シャルールは笑って、「お前もだ」と言った。  マントは身につけていない物の、これまでとは違う肌触りのいい服になんとも落ち着かない。

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