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彼の地へ
シャルールは僕の手をほどくと自分も手を離して、僕の顔を覆う前髪を上へとかき上げた。
「ああ、顔が見えたほうがいいな」
「な、何する……」
その手を振り解くよりも先にシャルールは僕の額にその唇を押し当てた。
すぐに離されたそこをばっと両手で押えた。
シャルールが赤いマントをバサッと広げて床に方膝をついて座った。
「シャルール様?」
下から見上げるシャルールを見下ろすと、シャルールは微笑んだ。
穏やかに笑うシャルールは指先からいくつもの炎の蝶を羽ばたかせた。
「この戦が終わって、国を統治できたら俺のものになれ」
「は?」
何を言われているのかさっぱり理解できなくて、思わずおかしな声が出てしまった。
「本当に、色気の無い奴だな」
「僕に色気があっても無くても……何を言っているのかよく分からないんですけど……」
イグニスから兵士は聞いたと言っていた。僕が亡命を果たせば、シャルールが側に置くだろうと。
「この状況で……」
シャルールは大きくため息を溢すと、「これから俺は戴冠式に向かう。新王の任命を受ける」とゆっくりと話した。
「時間が無いんですよね?」
「少し黙って、話を聞いていろ」
シャルールは僕の手を握った。
「王は膝をつく事が許されない。恋人や妃、友人にも膝を着いて願いを請うことはできない。だから、先に伝えておく。この戦いが終わったら俺の物になれ。俺が望むのはそれだけだ」
シャルールが握った僕の手を強く握り締めて、僕を見上げた。
「…………シャルール様、この戦いが終われば、僕は……奴隷は解放されるんですよね?」
「ああ。そうだ」
「そうしたら僕は、自由になれるんですよね?」
「ああ」
「自由になって
、仕事ができるようになれば、僕はシャルール様の望むように側で仕える事もできますよね? 前に言っていた、スレアの馬番もできますよね?」
兵士に言われたように。
「ああ。できる」
「それなら、僕はシャルール様が望むままに側でお仕えします」
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