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総失

 2、3階を吹き抜けにした大広間。  たくさんの人がそれを見守っていた。  盛大な音楽も王冠、宝物の授与も無く、国の要人が大広間に集まり、簡易的な戴冠式が行われた。  僕は兵士たちと一緒に大広間の最後列に並んでそれを見ていた。  赤いマントを身に付けたシャルールが中央の絨毯の上を歩き、大座へと向かい、階段を上がると振り返った。  深紅の瞳が大広間を見渡し、「先代王より後を引き継ぎ、新王の座に即位したシャルール・ディン・エクスだ」と宣言した。 「これより戦地へと向かう。エクスプリジオン第2、第3兵団は私と共に。第3兵団は……」  とても新国王のスピーチではない。シャルールは王座の前の壇上から戦況と作戦、部隊の配置等々を指示していた。横に立っていた兵士から、「戦争が終われば正式な戴冠式をする」と教えられたけど、シャルールらしいなとその雄姿を見ていた。  だけど、僕は気がついてしまった。  時折、僕に鋭い視線を送ってくる相手に。  中央の絨毯の敷かれた通路を挟んだ向かい側。より壇上に近い要人の中にフェルメがいた。  きっと、奴隷の僕がここにいることを嫌がっているのだろう。  フェルメは以前会った時とは違い、フードもかぶっておらず、美しい白銀の髪を後ろで縛り、薄緑色のガウンを羽織っていた。きっと、シャルールと同じように正装なのだろう。  苦手な相手に会うのは嫌なので、早く退室したいと周りを見渡すが、誰も出て行く気配は無く、僕だけで勝手な行動も取れないので、近くの兵士達の後ろに下がるようにして隠れた。  たくさんの人がいても、シャルールの言葉を聞き逃さないように、広間は静まりかえっている。  それが、余計に緊張を高めた。 「健闘を祈る」  そう言ったシャルールが腰に差していた剣を柄ごと掲げた。赤い石が埋め込まれ、細かい装飾のされたその剣は王座の後ろの飾り窓からの光を受けて、広間中に赤い光を放った。  息を呑む美しさに歓声が上がり、すっと消えた光でシャルールが動き出したのが分った。  大広間の中央を通り抜けると、シャルールは入って来た大きな扉を開けて出て行った。  続くように上座にいた要人たちも広間から出ようと動き出した。 「ディディエこっちに」  一緒いた兵士たちに促されて広間を出ようと踵を返した。

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